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各国共同研究開発

各国共同研究開発領域

環境・エネルギーライフサイエンス・臨床医学システム・情報科学技術ナノテクノロジー・材料 防災、宇宙、海洋、原子力などの先端・重要科学技術分野の研究開発分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)及び推進4 分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)加えて、人材育成の重要性も改めて示され、男女共同参画の重要性が強調され、女性研究者の採用目標

各国共同研究開発パートナー一覧

日本

理化学研究所、日本原子力研究開発機構(JAEA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、海洋研究開発機構、また旧国立試験研究所である物質・材料研究機構(NIMS)、放射線医学総合研究所(現 量子科

学技術研究開発機構の一部)、防災科学技術研究所 日本学術振興会(JSPS 科学技術振興機構(JST)科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本医療研究開発機構(AMED)国連における持続可能な開発目標(SDGs)産業技術総合研究所(AIST)、産業研究所(RIETI)、物質・材料研究機構、理化学研究所、産業技術総合研究所、

主要国の研究開発戦略(2020年)

CRDS-FY2019-FR-02 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター

共同研究開発大学

東北大学、東京大学、京都大学、東京工業大学、名古屋大学、大阪大学、一橋大学

共同研究開発案件

「震災からの復興、再生の実現」、環境・ エネルギーを対象とする「グリーンイノベーションの推進」、医療・介護・健康を対象とする「ライフイノベーションの推進」再生可能エネルギー・水素等)。農林水産研究「超スマート社会」の実現(Society 5.0)が謳われ、その実現に向けて先行的に進めるとされた「11 のシステム」には「地域包括ケアシステムの推進」、「スマート・フードチェーンシステム」、「スマート生産システム」が含まれている。また戦略的に解決に取り組んでいくべき課題の中でも、食料の安定的な確保、世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成、ものづくり・コトづくりの競争力向上など関連事項が

複数含まれている。なお上述の「世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成」に係る研究開発に関しては、健康・医療戦略推進本部の下、健康・医療戦略及び医療分野研究開発推進計画に基づき、以下の9 つの主な取組みを柱に推進するとしている。またその他には感染症対策などの分野での国際貢献を進めていくことライフサイエンス・臨床医学分野医療分野研究開発推進計画に基づき、再生医療、がんなど医療ICT 基盤の構築および利活用の環境整備を行うこととしている。大規模なコホート研究・健康調査、医療情報の電子化・標準化・データベース化、iPS細胞の安定的な培養・保存技術等を含めた再生医療の実用化に向けた研究開発、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の研究開発、医薬品・医療機器の承認審査の迅速化・効率化・体制の強化等、複数方面での進捗が挙げられている。基本計画のフォローアップで「ヒトiPS 細胞の作成成功」、「各種臓器がんについての原因遺伝子同定及び治療法開発」、「イネゲノム解析等の結果を踏まえた新しいイネ等の作出計画進展」など

オールジャパンでの医薬品創出

オールジャパンでの医療機器開発

革新的医療技術創出拠点プロジェクト

再生医療の実現化ハイウェイ構想

疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト

ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト

脳とこころの健康大国実現プロジェクト

新興・再興感染症制御プロジェクト

研究開発の俯瞰報告書

医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業へと育成していくこと」、「日本発の革新的医薬品や医療・介護技術に係る研究開発を推進していくこと」

革新的な予防法の開発」、「新しい早期診断法の開発」、「安全で有効性の高い治療の実現」、「高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上」

グリーン・イノベーション」の一環で、バイオマスエネルギーやバイオリファ

イナリーなどに関する研究開発が脈々と取り組まれている。

科学技術活動

総合科学技術・イノベーション会議

文部科学省では、ライフサイエンス、材料・ナノテクノロジー、防災、宇宙、海洋、原子力などの先端・重要科学技術分野の研究開発の実施や、創造的・基礎的研究の充実強化などを進めており科学技術・学術審議会

日本学術会議日本構築し、人文・社会科学、生命科学、理学・工学の3 つの部会や分野別委員会、課題別委員会において科学に関する重要課題を審議し、政府に対する政策提言として取りまとめている

は以下のとおりである。

(1) 独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)

(2) 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)

(3) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

(4) 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」事業を実施している

り、1) 大型放射光施設(SPring-8)、2) X 線自由電子レーザー施設(SACLA)、3) スーパーコンピュータ「京」、4) 大強度陽子加速器施設(J-PARC)の4 施設が指定され、国の支援を受けている。

中国

研究拠点・基盤整備

「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006~2020)」では、研究基盤整備に関して以下のように記述されている297。「第一に、大型科学機器や施設の建設及び、これらの共有を促進する。第二にデータ及び情報プラットフォームに関しては、データ及び文献の共有を促進し、社会全体にサービスを提供する。第三に、資源に関するプラットフォームとして、遺伝子資源、標本などの自然科学や技術における資源の保護、利用システムを確立する。第四に、国内での計量標準、技術標準を策定する。」

国家発展改革委員会は、科学技術部、財政部、教育部、中国科学院、中国工程院、国家自然科学基金委員会、国家国防科学技術工業局、中国人民解放軍総装備部などの関連部門と共同で、「国家重大科学技術インフラ整備中長期計画(2012 年~2030 年)」を策定した。これは中国初めての国家重大科学技術インフラの中長期建設と発展を系統的に推進するための文書である。国の科学技術戦略にのっとり、エネルギー、生命科学、地球システム・環境、材料、素粒子物理、核物理、宇宙・天文、エンジニアリング技術の7 つの重点分野を指定し、それぞれの分野における研究インフラを整備するとしている。

知的財産権に関する動きとしては、2019 年9 月に「技術・イノベーションサポートセンター(TISC)」を設立し、世界知的財産権機関(WIPO)をはじめ世界各国と提携し、知的財産権を保護する国際的な取り組みを強化していく方針を発表している298。

以下、主要な研究拠点及び研究基盤を紹介する。① 国家実験室中国では、1984 年に科学技術部、教育部と中国科学院等が中心となり重点的に予算を配分する

研究室を指定する国家重点実験室計画を開始した。これらの国家重点実験室は当初、大学・国立研究機関に設置され、年間800 万~1,000 万元(約1.2 億~1.6 億円)の安定的な支援が得られた。2015 年10 月には、企業に設置された国家重点実験室が75 拠点認定され、その時点で合計265の実験室が指定されていた。また、2018 年6 月に科学技術部から発表された「国家重点実験室建設発展の強化に関する意見」では、「2020 年までに大学・国立研究機関所属の国家重点実験室を300 拠点、企業型国家重点実験室を270 拠点、省部共同国家重点実験室を70 拠点、全体で700拠点程度まで増加」299させる予定であることが述べられている。1990 年代からは、国家重点実験室の上位の「実験室」として国家実験室が設置されることとなり、シンクロトロンをはじめとする大型施設・設備が建設された。2003 年までに、こうした大型研究施設を中心に中央政府は9 つの国家実験室を承認した。2006 年頃から中央政府による第三

期の国家実験室の設置を検討した際、従来数百人規模だった国家実験室を数千名規模とした上で、多分野融合の国家実験室を建設する方針を打ち出した。2016 年には、この方針を受けた代表的実験室である青島海洋国家実験室に2 億元が提供された。

【図表VII-6】 国家実験室一覧(2018 年現在)名称 設立時期 所属大学・研究機構 都市

第一期 国家実験室

1 放射光国家実験室 1984 年 中国科学技術大学 合肥

2 北京電子陽子加速器国家実験室

1984 年 中国科学院・高エネルギー物理研究所 北京

3 蘭州イオン加速器国家実験室

1991 年 中国科学院・現代物理研究所 蘭州

4 瀋陽材料科学国家実験室 2000 年 中国科学院・金属研究所 瀋陽

第二期 国家実験室(2003 年に建設が承認され、最終資格が審査中)

5 北京凝縮系物理国家実験室 審査中 中国科学院・物理研究所 北京

6 合肥微小物質科学国家実験室

審査中 中国科学技術大学 合肥

7 清華大学情報科学技術国家実験室

審査中 清華大学 北京 北京分子科学国家実験室 審査中 北京大学、中国科学院・化学研究所 北京

9 武漢オプトエレクトニックス国家実験室

審査中 華中科学技術大学、中国科学院・武漢物

理数学研究所、中国船舶重工集団公司、

第717 研究所

武漢

第三期 国家実験室(2006 年以降に建設が承認され、最終資格が審査中)

10 青島海洋科学と技術国家実

験室

2013 年 中国海洋大学、中国科学院・海洋研究

所等

青島

11 磁気閉じ込め核融合国家実験室

審査中 中国科学院・合肥物質科学研究所、原子

力産業西南物理研究院

合肥

成都

12 グリーンエネルギー国家実験室

審査中 中国科学院・大連物理化学研究所 大連

13 船舶・海洋工学国家実験室 審査中 上海交通大学 上海

14 微細構造国家実験室 審査中 南京大学 南京

15 重病難病国家実験室 審査中 中国医学科学院 北京

16 タンパク質科学国家実験室 審査中 中国科学院・生物物理研究所 北京

17 航空科学技術国家実験室 審査中 北京航空航天大学 北京

18 現代軌道交通国家実験室 審査中 西南交通大学 成都

19 現代農業技術国家実験室 審査中 中国農業大学 北京

出典:各種データを元にCRDS 作成

② 国家ナノ科学センター世界的にナノテクノロジーが注目されだした中、中国科学院と教育部の初めての共同事業として、中国科学院と清華大学及び北京大学による中国国家ナノ科学センターが設置された。当センターは中国科学院・化学研究所の敷地内にあり、ナノデバイス、ナノ材料、ナノ材料の生体への影響と安全評価、ナノキャラクタリゼーション、ナノ標準化、ナノマニュファクチャリン

グ等の実験室を抱える。

③ スーパーコンピュータ

2017 年6 月に発表された世界のスーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500」によると、中国無錫国立スーパーコンピュータセンターが開発した「神威・太湖の光(Sunway Taihu Light)」が93.01PFLOPS で2 年連続世界第1 位を獲得した。

中国におけるスーパーコンピュータの開発は、国防科技大学の天河シリーズ、銀河シリーズ、中国科学院の星雲シリーズ、国家並行計算機工程技術センターの神威シリーズ、及びレノボグループ深騰シリーズの四者が開発競争を行っている状況にある。2017 年6 月に1 位になった時点で、「神威・太湖の光」が国家並列計算機工程技術研究中心(NRCPC)の開発した国産の高性能プロセッサ「SW26010」を採用していた。

中国のスーパーコンピュータはハード面だけではなく、清華大学付昊桓副教授(FU Haoheng)がリードした研究チームは、「神威・太湖の光(Sunway Taihu Light)」に基づき「非線形地震シミュレーション」ソフトウェアを開発して、2017 年のゴードンベル賞を受賞するなど、スーパーコンピュータの応用ソフトウェアの開発も世界水準に達している。2019 年11 月に発表された「TOP500」では、2018 年に続き「神威・太湖之光」が世界第3 位、「天河二号」が第4 位であった。

④ トカマク型核融合装置:EAST中国科学院プラズマ物理研究所(安徽省・合肥市)では、世界初の超伝導技術を用いたトカマク型核融合装置、EAST301の開発が取り組まれている。プラズマ物理研究所では従来、ロシアから導入したトカマク型核融合装置HT-7 の改造に取り組んできたが、その次世代装置として開発されたのがEAST である。2012 年8 月に、中国科学院プラズマ物理研究所、日本核融合科学研究所と韓国国家核融合研究所(NFRI)が韓国済州島にて「高性能プラズマ定常保持に関する重要な物理的課題研究」ワークショップを開催し、日中韓三国の核融合領域における「A3 フォー

サイトグラム」が正式的に発足した。日本学術振興会(JSPS)、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)と韓国研究財団(NRF)三者共同出資で、5 年間にわたって1,500 万元を投入することになった。2017 年には、プラズマ持続時間101.2 秒、プラズマ温度5,000 万度を達成した。将来的には、温度1 億度の高温プラズマを持続的に1,000 秒間保持することを目指している中国で建設済み・建設中の大型科学技術施設

国家自主創新基礎能力建設第十一次五カ年計画(2006-2010 年)で指定された研究施

設国家重大科学基盤建設中長期計画(2012-2030 年)十二次五カ年計画期間中に優先的に建設する研究施設

1 核破砕中性子源 1 海底観測ネットワーク

2 強磁場装置 2 高エネルギー放射光検証装置

3 大型天文望遠鏡LAMOST 3 加速器駆動核変換システム

4 海洋科学総合調査船 4 総合的極端条件発生実験装置(超低温等)

5 航空リモートセンサリングシステム 5 大電流重イオン加速装置

6 航空機氷結実験用風洞 6 高燃焼効率・低炭素ガスタービン試験装置

7 地殻変動観測ネットワーク 7 高高度宇宙線観測ステーション

8 材料安全評価施設 8 未来通信ネットワーク実験装置

9 国家タンパク質科学センター 9 宇宙環境シミュレータ

10 大型宇宙環境基盤観測システム(子午

工程)

10 トランスレーショナル医療研究施設

11 地下資源探査及び地震予測用超低周波

電磁気観測システム

11 南極天文台

12 農業生物安全研究センター

12 精密重力測量装置

13 大型低速風洞

14 上海光源実験ステーションの増設

15 モデル動物の表現型と遺伝分析施設

16 数値地球システム·シミュレータ

上記大型研究施設の代表例として、放射光施設の上海光源とパルス超強磁場発生装置を以下に

紹介する。

<放射光施設:上海光源>

中国科学院・上海応用物理研究所には、中国最大の放射光施設「上海光源」(上海市、張江ハイテクパーク内に立地)が建設され、2009 年より稼働している。加速エネルギーは3.5GeV、蓄積リング長は432mであり、第三世代放射光放射光施設である。

中国科学技術大学・微小物質国家実験室(安徽省・合肥市)及び中国科学院高エネルギー物理研究所の北京シンクロトロン放射光施設(北京市)とあわせて、中国国内には計3 ヵ所の放射光施設がある。<パルス超強磁場発生装置>

パルス超強磁場発生装置は、2008 年4 月に華中科学技術大学によって開発が開始され、2014年10 月に完成した。当実験装置は「国家自主創新基礎能力建設第十一次五カ年計画(2006-2010年)」によって指定された12 の国家重大科学研究施設・装置の一つであり、最高磁場50T~80T(定常)、パルス幅2,250ms~15ms に設計され、合計で1.33 億元が投入された。

7.3.1.3 産学官連携・地域振興

① 中国科学院・院地協力事業

1998 年中国科学院は、企業・地方行政との横断的連携事業である「院地協力302」事業を立ち上げた。本事業では、2000 年以降に、青島生物エネルギー・プロセス研究所、煙台海岸帯研究所、蘇州ナノテク研究所、蘇州生物医学エンジニアリング研究所、寧波材料技術・エンジニアリング研究所、深セン先進技術研究院など、東沿岸部の経済発展課題向けの研究所を設立した。こうした産学官連携においては、地域行政側は土地、建物を提供し、科学院側は研究者、研究設備及び運営資金を提供している。新研究所設立後、企業側の需要に応じてプロジェクトで委託研究開発や共同研究開発を行う。プロジェクトの資金は、大部分は企業側が提供し、一部は国の競争的資金を受けている。

科学院傘下の研究所においては、その技術的な蓄積を地域や産業界へ橋渡しすることが科学院本部から奨励されており、各研究所は技術移転やスタートアップ支援などによって、「院地協力」を推進している。ただし、複雑な技術移転課題の場合などでは、科学院傘下の研究所だけでなく、多くの他機関も巻き込んで研究・事業を行うこともある。院地協力事業により設立された中国科学院深セン先進技術研究所(SIAT)の院長助理(事務方の副院長相当)からのヒアリングによれば、同研究所では基礎研究はせず、産業界への技術の橋渡しをすべく、マーケットを意識した応用・開発研究のみに集中しており、研究としては質の高いプロジェクトでも、事業化の見込みがなければ5~6 年で打ち切られることもあるとのことである。同研究所からは、MRI(磁気共鳴映像法)検査装置を製造することに成功したベンチャー企業がスピンアウトしており、2018 年6月時点で既に中国国内で200 台程販売されていた。当ベンチャー企業は、中国科学院深セン先進技術研究所内で開発を行い、上海で生産を行っている。オリジナリティの高い技術をどこから導

入するか、及び優秀な若い人材をいかに獲得し、定着させるかが当研究所の課題であるとのことである。前者に関しては日本などからオリジナリティの高い技術を導入することに努力し、後者に関しては、いかによい給与を与えるかにかかっているとのことである。当研究所のように、院地協力事業による活動は、研究所からのスピンアウトを研究者らに奨励するなど、産業化に向けた開発に力を入れているケースが多い。

② 中国科学院・STSN プログラム

中国科学院は前述の院地協力事業に基づき、複雑な課題に対応するため、より幅広い地域における多くの研究所・組織との異分野連携を通じ、地域の企業や地方行政に科学技術成果の橋渡しを推進するSTSN(Science and Technology Service Network)プログラム303を打ち出した。STSNプログラムでは、戦略的新興産業の形成、中堅企業の技術の高度化、農業技術の向上、自然資源、環境保全、及び都市化に伴う都市環境の管理等の分野で、地域政府や企業からの受託研究を行う。STSN プログラムの窓口部門が研究課題の依頼を受け、プログラムを管理する科学技術促進局(以下は、促進局)が科学院内で公募を行う。研究資金の分担については、促進局が科学院側の研究資金負担分の7 割を負担し、各研究所は3 割を負担する。最終的に、プロジェクトが当初の目標設定を達成できた場合、促進局は各研究所の負担分を奨励金として返還する。__③ タイマツ計画に基づくハイテク技術産業開発区の設置研究成果の商品化、産業化、国際展開を促すことを目的に、中国全土に国家レベルのハイテク技術産業開発区を建設するタイマツ計画が1988 年から科学技術部により実施されている。これは、1980 年に導入された経済特区制度、1984 年に開始した経済技術開発区を更に拡張したものととらえることができる。

開発区では、製品輸出企業、ハイテク企業への税優遇等が実施されており、北京の「中関村」が最初に認定を受けた。2016 年時点で、全国146 ヶ所に開発区が設置されている。

④ 国家自主イノベーションモデル区

国家自主イノベーションモデル区は、各地域が自ら提案し、国務院の認可を受けたものが指定を受ける制度である。国が推進する重大特定プロジェクト等の研究開発をイノベーションへとつなげることや、地域の特色に応じた多様なイノベーションシステムを構築することを目的としている。「科学技術第12 次五カ年計画(2011~2015 年)」では、国家自主イノベーションモデル区への支援を拡大する方針が掲げられている。

2009 年3 月に初の国家自主イノベーションモデル区に指定された北京中関村国家自主革新モデル区は、世界的に影響力のある科学技術革新センター及びハイテク産業基地を目指し、「核心的イノベーション要素の統合」の中で、「知的財産権制度モデルパークを建設し、国の知的財産権戦略の実施徹底を推し進める上のけん引役を果たす」ことを目指している。北京中関村に続いて、武漢東湖ハイテク開発区、上海張江国家自主創新モデル区、及び安徽省の合肥・蕪湖(ブコ)・蚌埠(ホウフ)国家自主イノベーションモデル区など、21 カ所(2019 年9 月現在)が指定されている305。① 重点大学、グローバルCOE

中国では1993 年より21 世紀に向けて100 の大学を重点的に育成することを目的に「重点大学」を指定している。また、1998 年にはこれら重点大学の一部をより重点化するための「21 世紀に向けた教育振興行動計画(211 プロジェクト)」が実施されることになった。当計画は、1998 年5 月に提言されたことから一般に「985 プロジェクト」と呼ばれている。更に、2015 年10 月に国務院が「世界一流大学・一流学科の建設を推進する全体方策」を発表した。目標として、「2020 年までに若干の大学や学科が世界一流の水準に達する、2030 年までにより多くの大学や学科が世界一流の水準に達する、2050 年までに世界一流の水準の大学や学科の数と質が世界の最先端となり、高等教育の強国となる」ことが掲げられている。② 大学イノベーション能力向上計画実施案(2011 計画)

2012年3 月に教育部と財政部が共同で「大学イノベーション能力向上計画実施案(2011 計画)」を発表した。「大学、中国科学院及びその他の国立研究機関間の壁を打ち破り、協力の強化によるイノベーション能力の向上」による「資源の共有と異分野融合を促進し、人材育成と研究レベルCRDS向上」を目指している。申請主体は、大学をリード機関とした複数の研究機関により編成された研究グループであり、「共同イノベーションセンター」への資格を申請する。認定されたセンターは、国立研究機関、企業、地域行政及び海外の機関等と適宜協力関係を構築することが推奨される。共同イノベーションセンターは、「科学技術の最先端」を目指す「最先端型(科学前沿)」、「国のソフトパワーの向上」を目指す人文・社会科学の「文化伝承型(文化传承创新)」、「新興産

業の促進及び旧重工業基地の再建」を目指す「産業型(行业产业)」及び地域活性化を目指す「地域振興型(区域发展)」の4 つカテゴリ(类型)に分類されている。共同イノベーションセンターは、「最先端型」の場合は年間5,000 万元(約10 億円)、「文化伝承型」「産業型」及び「地域型」の場合は年間3,000 万元(約6 億円)が国から4 年間助成される。2012 年以降、年に1 度の頻度でセンターの選定が行われている。2013 年の第一期で「最先端型」における14 のセンター、2014 年の第二期で「最先端型」における24 のセンター、2014 年の第三期で「文化伝承型」における5 のセンターが認定されている。

米国

米国は、目的に応じた多様な研究資金が併存する典型的なマルチファンディング・システムの国であり、各省庁とその傘下の国立研究所や連邦出資研究開発センター(FFRDC)38が、それぞれの分野ごとに基礎・応用・開発研究を支援・推進している。基礎研究における主要な研究資金配分機関としては、医学分野のNIH、科学・工学分野のNSF、エネルギー分野のDOE 科学局(DOE/SC)39等が挙げられる。NSF は資金配分に特化した機関として、研究費のほぼ全て(98%)を大学など外部組織の研究者へ配分している。一方NSF 以外の各組織は、内部研究機能と外部への資金配分機能の双方を合わせ持っている。例えばNIH は、研究費の8 割を外部向け(extramural)研究資金として大学等に配分する一方で、2 割を内部向け(intramural)研究資金として傘下の27 研究所・センターにおける研究開発に振り向けている。DOD も同様で、6 割を外部に資金提供し、4 割を内部

研究に充てている。対照的にDOE は、研究資金の6 割を17 ある内部研究所で使用しつつ、DOE/SC 等を通じて残りを外部向けに資金配分している。中心的なファンディング機関であるNSF は、最新の戦略計画40『未来のための、発見とイノベーションへの投資:NSF 戦略計画 2018-2022 』(2018)41の中で、①科学、工学、学習におけ

る知識の拡大②現在および将来の課題に対処するための国力の強化③NSF のミッションの遂行と業績の向上、という3 つの戦略目標を掲げ、それらを実現するための短中長期の目標と達成手段を明らかにしている。また、2019 年度事業の目玉として「NSF が未来に向けて投資すべき10のビッグアイデア」の予算化を打ち出している。この10 のビッグアイデアは、「NSF におけるコンバージェンス研究の拡大」、「NSF INCLUDES(理数教育を通じたダイバーシティの拡大)」、「中規模研究インフラ」、「NSF 2026(斬新なアイデアの長期支援)」を主題とする4 つの「実現アイデア」と、「データ革命」、「人間と技術のフロンティア」、「生命法則理解」、「量子飛躍」、「宇宙の窓」、「北極」を主題とする6 つの「研究アイデア」で構成されている。

米国のファンディング・システムの特徴の一つとして、ハイリスク・ハイペイオフ研究支援を専門とする機関の存在が挙げられる。インターネットやステルス技術を生み出したDOD の国防高等研究計画局(DARPA)42が代表的であり、DARPA の成功に倣ってDOE にはエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)43が設けられている。また、インテリジェンスの分野では国家情報長官室(ODNI)の所管するインテリジェンス高等研究計画活動(IARPA)44がある。なお、連邦政府資金を用いた研究開発から生まれた成果については、原則として広く公開・活用を図る方針がとられており、2013 年2 月にOSTP が発出した指令に基づき、各省庁において連邦政府資金による研究成果(論文、データ等)のパブリックアクセスを拡大するための計画が策定されている。一方、2018 年に展開された米国と中国のハイテク分野の摩擦は、米国の研究開発のファンディング・システムにも直接的な影響を与えている。特定の国による組織的な行為が米国における研究の安全や公正(integrity)に対する侵害のリスクを与える可能性が意識され、ファンディング機関における全面的な調査や対応が展開された。2018 年4 月、NIH が傘下の研究所やその研究ファンディングを受領する全米の大学や研究機関に対し、徹底的な調査を開始することを要請し、同年8 月にはさらに外国政府・企業との資金的関係を開示する措置を徹底させるよう求めた。また、NSF は、2019 年3 月に科学助言グループ「JASON」に委託し、NSF、NIH、DOE などの主要な公的ファンディング機関及びその他の情報機関、法執行機関によって提供された証拠に基づき調査を行い、12 月11 日付で報告書「基礎研究の安全保障」を発表した 。同報告書は、米国の基礎研究における開放性と、外国人材が集まり協働する開かれた研究環境を維持することが米国の科学技術力の優位を保証すると確認した一方、特定の国による影響が研究の安全や公正性を侵害する問題に対しては、研究における責務相反および利益相反などの開示に向けた透明性の向上と条件の明確化などの措置を早急にとるべきと提言した。_

ライフサイエンス・臨床医学分野

「All of Us」研究プログラム(個別化医療のためのコホート研究)

② BRAIN(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)イニシアティブ

③ がん・ムーンショット(Cancer Moonshot)

④ 再生医療イノベーション・プロジェクト

医学系以外のライフサイエンス分野に関しては、多くの省庁において研究開発活動が行われている。省庁横断的な取り組みとしては、2000 年のバイオマス研究開発法に基づくバイオマス研究開発イニシアティブが、DOE とUSDA を中心とする8 省庁・機関により推進されている。トランプ政権は2021 年度の研究開発予算優先事項の一つとしてバイオエコノミーを特定した上で、2019 年10 月に「米国バイオエコノミー」サミットを開催し、バイオエコノミー関連の研究開発予算を優先化して基礎研究を推進するとした

 

システム・情報科学技術分野

人工知能(AI)」サミット、同9 月には「量子情報科学における米国リーダーシップ

強化」サミット、同9 月には「5G 通信」サミットが開催され、有識者による政策議論が交わされた2021 年度

のPCA もこれら11 領域となる予定である。

① 人工知能(AI)

② 人のインタラクション、コミュニケーション、能力向上のためのコンピューティング

(CHuman)

③ フィジカルシステムをネットワーク化するコンピューティング(CNPS)

④ サイバーセキュリティとプライバシー(CSP)

⑤ 教育と人材(EdW)

⑥ ハイケイパビリティーコンピューティング・システムの研究開発(EHCS)

⑦ ハイケイパビリティーコンピューティング・インフラと応用(HCIA)

⑧ インテリジェント・ロボット工学と自律システム(IRAS)

⑨ 大規模データ管理と解析(LSDMA)

⑩ 大規模ネットワーク(LSN)

⑪ ソフトウェアの生産性・持続性・品質(SPSQ)

2020 年度のNITRD 予算に対する大統領府の意向として、全体で55 億ドル、うちAI 関連で9.7 億ドルが予算教書ベースで示されている。なお、いずれの金額も、DOD およびDARPA のAI 関連予算は非公開のため含んでいない。

ナノテクノロジー・材料分野

NNI では、①世界クラスのナノテクノロジー研究開発の推進、②商業的および公共的利益のための新技術の製品への移転促進、③ナノテクノロジー発展のための教育投資、熟練労働力の確保、インフラ・機器の整備、④ナノテクノロジーの責任ある発展の支援、の4 つを戦略目標として、20 の省庁が協同して研究開発を行っている

① ナノテクノロジー・シグネチャー・イニシアティブ(NSI)およびグランド・チャレンジ(GC)・持続可能なナノ製造 [NSI]・2020 年およびその先のナノエレクトロニクス [NSI]・センサーのためのナノテクノロジー、ナノテクノロジーのためのセンサー [NSI]・ナノテクノロジーを通じた水の持続可能性 [NSI]・ナノテクノロジーにより促進される未来のコンピューティングのグランド・チャレンジ[GC]

② 基盤的研究

③ ナノテクノロジーにより発展するアプリケーション、デバイス、システム

④ 研究インフラおよび計装

⑤ 環境、健康、安全

先進製造分野の研究開発本プログラムはNIST に置かれた先進製造国家プロ

グラム局(AMNPO)を事務局としてDOD、DOE、NIST、NSF 等の参画機関により運営されており、産学セクターのための先進製造研究基盤として製造イノベーション研究所(MII)を構築することを目的としている。これまでに14 拠点のMII が整備されており、うち8 拠点がDOD、5 拠点がDOE、1 拠点がDOC によって設置されたもので、積層造形、デジタル製造、バイオ、エネルギーなど様々な技術分野の研究開発が進められている、3 つの目標として①新たな製造技術の開発、②製造業の人材の教育、訓練、ネットワークの構築、③国内の製造サプライチェーンの拡大、を掲げている74トランプ政権下では国際情勢も踏まえた希少鉱物(critical minerals)の確保に関する戦略的取り組みが進んでいる。商務省(DOC)が政府機関全体の行動計画を含む希少鉱物の供給確保戦略を発表し、リサイクルや代替技術の開発、サプライチェーン強化など希少鉱物の対外依存度低減に向けた方策を打ち出している77。

 

欧州連合(EU)

EU の行政機関である欧州委員会の中で省庁と同格の役割を果たす総局のうち、研究・

イノベーション総局(DG-RTD)が科学技術イノベーションを所管している。また企業・産業総局、環境総局、コミュニケーションネットワーク・コンテンツ・技術総局、エネルギー総局など他の総局もそれぞれの担当分野における科学技術イノベーションに関連した政策の形成を行っている。これらの各総局が作成した案をDG-RTD が調整し、政策案としてまとめている。次に、欧州委員会に対する科学的助言の仕組みとして、SAM(Scientific Advice Mechanism)という仕組みが存在する。SAM は、以下のような科学的助言を行うことを目的とする。SAM の中心は、ハイレベルグループと呼ばれる専門家集団である。7 名の広範な分野(分子生物学・細胞生物学、社会学、物質科学、原子力、気象学、数学、微生物学)にわたる学識者から成る。その役割は、①欧州の政策決定において、独立的な立場からの科学的な助言が不可欠な問題に対し、エビデンスや経験則(その確からしさや限界に関する情報も含む)とともに科学的な助言を与えること、②ある特定の政策的な課題を同定するための助言を与えること、③欧州連合の政策決定に関する欧州委員会と独立した科学的助言とのやり取りのあり方について改善の提案を行うこと、である。また、ハイレベルグループを支える事務局機能を、欧州委員会の研究・イ

ノベーション総局内に持たせている。さらに、欧州委員会はその内部に共同研究センター(JRC)というシンクタンクを有し、そこから得られた情報を活用している。JRC は欧州委員会の総局の一つと位置づけられ、それぞれの専門分野において欧州委員会の政策形成に役立つような科学的研究を行い、その結果に基づいて助言を行っている。例えば食品の安全性基準や、効率的なエネルギー利用等に関する研究などである。加えて、学界や産業界、各国政府の声を幅広く採り入れるための多様な方法が用意されている。

加盟国政府や各国の学協会などは随時欧州委員会の意見募集に対して意見を表明でき、またERA-NET と呼ばれる研究コンソーシアムもあり、ここで議論された内容が参考にされることもある。

以上の内容を示したのが、である。まず、欧州委員会において政策案(法案)が策

定される。政策案の策定には、欧州委員会直下のシンクタンクやその他の助言機関からの助言、様々なチャネルを通じての意見が反映される。策定された政策案は欧州議会とEU 理事会に諮られる。そこで承認が得られた政策プログラムは、研究支援実施機関などを通じて実行される。グラフェンプロジェクトでは、スウェーデンのチャルマース工科大学を中心に、欧州17 カ国にわたり61 のアカデミア機関と14 の企業によるコンソ

ーシアムを形成している。ヒューマン・ブレインプロジェクトでは、スイス連邦工科大学を中心に、欧州を中心に、域内外から80 のパートナーから成るコンソーシアムを形成している。日本からは沖縄科学技術大学院大学と理研が参加している。

また2016 年4 月には、FET Flagships の3 つめのプロジェクトとして量子技術が発表された。上級運営委員会が取りまとめたプロジェクトのガバナンスや実施体制に係る2017 年10 月の最終報告書をもとに、2018 年から実際にプロジェクトが推進されている。

さらに、2018 年末には「エネルギー・環境・気候変動」、「ICT・つながる社会」、「健康・ライ

フサイエンス」の分野で各2 つ、計6 プロジェクトがパイロットプロジェクトとして選定された。これらのプロジェクトは2019 年3 月から1 年間にわたり100 万ユーロの支援を受け、可能性検証を実施する。2021 年から最大3 プロジェクトが本採用となり本格支援を受けることになる。FET Flagships プログラムの特徴の一つは、支援対象者の選考プロセスにある。2013 年のプロジェクト選定に際しては、採択の条件として、選考期間の18 か月の間に、応募者が国をまたいだ研究ネットワークを構築し、各国の資金配分機関や企業からの資金援助を取り付け、プロジェクト推進に必要な金額の半分を負担できる体制をつくるという条件が課されていた。つまり、プログラム設計の中に、欧州に萌芽しようとするネットワークを、さらに育て上げる仕組みが組み込まれている。この時の選考で最終的に選ばれたのは2 プロジェクトであった。しかし、この過程で持続可能なプロジェクトが他にも4 つできており、2 プロジェクト分の資金援助を約束することにより、結果的に6 つの知識生産ネットワークを生み出すことに成功している。基盤整備については、EU では欧州全体の研究インフラの整備のため、欧州研究インフラ戦略

フォーラム(European Strategy Forum on Research Infrastructure: ESFRI)と呼ばれるEU加盟国が形成するフォーラムが2002 年に設立された。ESFRI は2006 年に専門家により策定された「ESFRI Roadmap 2006」を発表した。これは、10 年~20 年後を見据えた際に欧州共通で必要となる研究開発施設のロードマップである。その後、このロードマップは2008 年、2010 年、2016 年、2018 年にアップデートされており、現在はエネルギー、環境、健康・食糧、物理化学・工学、社会・文化イノベーション、デジタルの6 分野で55 プロジェクトが挙げられている。施設の例としては、地球環境研究のための観測施設、ゲノム解析のための巨大データベース、最新鋭の超高速スーパーコンピュータなどがある。このうちEU が機関として深く関わり、規模

が大きく、また現在、研究施設・インフラが稼働もしくは建設が行われている段階のプロジェクト(計画段階からすでに進んでいるプロジェクト)について以下に記載する。__欧州核破砕中性子源(European Spallation Source: ESS)91世界最強の中性子源を有する次世代の中性子発生研究施設として、欧州核破砕中性子源は建設を開始している。2009 年にスウェーデンのルンド市が研究センター建設サイトとして選ばれ、欧州において世界をリードする材料研究のセンターとなることを目指している。欧州核破砕中性子源では2013 年から建設を開始、2015 年10 月には同施設を運営するためのERIC(European Research Infrastructure Consortium)法人を設立した。2023 年からの利用者プログラムの開始を予定しており、出資金及び運用費は参加17 カ国が負担し、建設費及び運用費の一部をスウェーデン及び共同出資国のデンマークが保証する。建設費、設備費の合計で15億ユーロ程度が必要とされている。同じルンド市にあるルンド大学は放射光施設の建設を計画しており、今後材料科学や生物学の分野で研究の拠点となることが期待されている。またスペイン・ビルバオにもESS の部品製造などを行う施設が建設される計画である。② 欧州極大望遠鏡(The European Extremely Large Telescope: E-ELT)92

欧州極大望遠鏡は、ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory: ESO)において2005 年ごろから実現に向けて計画が進んでいる、口径約40 メートルの次世代大型光赤外望遠鏡のこと。2024 年の運用開始を目指している。年間7.5 億ユーロ程度の運用費用がかかると見込まれている。運用の主体は欧州の14 カ国及びブラジルが共同で運営する団体であるヨーロッパ南天天文台だが、日本などの国も参加する可能性がある。

環境・エネルギー分野「統合的な欧州戦略的エネルギー技術計画(Integrated SET-PLAN)96」、「産業リーダーシップ」においては、先進製造というキーテクノロジー区分において、エネルギー低減型の製造技術、エネルギー効率の高い建物、二酸化炭素の排出を抑える製造技術についての研究が優先事項に挙げられている。また、宇宙というキーテクノロジー区分においては、環境負荷低減型のロケット発射装置の研究が進められている。次に「社会的課題への対応」においては、①安全かつクリーンで、効率的なエネルギー、②スマート、環境配慮型かつ統合された輸送、③気候変動への対処、資源効率および原材料、という社会的課題において、環境・エネルギー分野の研究が進められようとしている。①においては、ゼロ・エミッションに近い建物、低価格かつ低環境影響の電力供給、分散された再生可能エネルギー源をつなぐ欧州レベルでの送電網といったテーマが挙げられている。②においては都市部での輸送・交通手段を改善する研究等、③においては気候変動に関する理解を高めつつよりよい対応策を提示する研究等が推進されている。

原子力分野については、当該分野のフレームワークプログラムであるEuratom が運営されている。Euroatom にはHorizon 2020 の下、2014 年~2020 年で16 億ユーロが配分されることになっている。

ライフサイエンス・臨床医学分野現在のライフサイエンス分野の研究政策の柱は、個別化医療、環境と健康、公衆衛生等である。、個別化医療に向けてオ

ミクスデータを活用する方針が示された。環境と健康については、「環境・エネルギー」の項で述べた第7 次環境行動プログラムの3 番目の目標(人々の健康や福祉に対する環境からの脅威を軽減する)が基本方針となっている。公衆衛生については、医療システム改革に向けたエビデンスの活用、欧州の多様な医療システムの活用とデータの相互利用の促進、医療技術アセスメント等に資する研究を推進する方針が示されている。、「産業リ

ーダーシップ」においては、バイオテクノロジーがキーテクノロジーの一つに挙げられている。この区分では、生物学的・生物医学的診断装置の開発といったテーマの研究が進められようとしている。また、「社会的課題への対応」では、保健、人口構造の変化および福祉という区分においてこの分野の取り組みが示されている。それによると、①疾病研究(慢性病、感染症など)、②特定課題(医療システムの効率化、新たな医薬やワクチンの開発、医療の公平化)、③方法論、ツール、技術の開発(希少疾患の治療法、オーダーメイド医療、遠隔医療など)の優先事項が掲げられている。、先述の医薬分野の共同技術イニシアティブ (JTI)であるIMI2 への投資を通じ、革新的な医薬の開発も支援している。

システム・情報科学技術分野、未来技術(Future and Emerging Technologies: FETs)において、ICT をインフラとする先端技術の研究が進められている。特に大規模なものとして、グラフェン、ヒューマン・ブレイン、量子技術の各プロジェクトがある(3.3.1.4 で詳述)。「産業リーダーシップ」においては、ICT は6 つのキーテクノロジーのうちの1 つに指定されており、その中でも群を抜いて大きな投資(76 億ユーロ)が予定されている(2 位はナノテクノロジーと宇宙で、それぞれ約15 億ユーロ)。「社会的課題への対応」においても、ICT はインフラ的役割を担う。特に医療、クリーンなエネルギー、環境負荷の小さい輸送といった課題でICT 関連の研究が進められる。さらに、欧州イノベーション・技術機構(EIT)では、デジタル分野の研究・教育が進められる。ここでの主要テーマは、スマートスペース、スマートエネルギーシステム、健康・医療、未来のデジタルシティ、未来のメディア・コンテンツ配信、インテリジェント輸送システムである。

ナノテクノロジー・材料分野、ナノテクノロジーの開発、発展のため、研究開発投資の拡大、インフラの整備、産業の革新、人材開発などに加えて、健康・安全・環境・消費者保護および国際協力の推進の2 つの取り組みについての重点的対応を提唱している「産業リーダーシップ」において、ナノテクノロジーと先進材料が6 つのキーテクノロジーのうちの2 つに指定されている。前者では、ナノ材料・ナノデバイス・ナノシステムに関する研究や、ナノテクノロジーに関する安全面・社会的側面の研究、ナノ材料や部品の製造プロセスの改善に関する研究などが進められている。後者では、自動修復などの機能材料、大規模かつ持続可能な材料製造技術、計測・標準化・クオリティコントロール技術などが優先事項に挙がっている。「産業リーダーシップ」におけるナノテクノロジーと材料分野への投資は、それぞれ約15 億ユーロと約14 億ユーロである。これらを加えるとICT 分野の76 億ユーロに次ぐ第2 位になり、技術開発におけるプライオリティの高い分野であることがうかがえる。また、10 年間で10 億ユーロという巨額のプロジェクトFET(Future and Emerging Technologies)がEU におけるトップクラス研究拠点形成を支援するという目的で進められており、2013 年開始のGraphene

Flagship、Human Brain Project と、2018 年開始のQuantum Flagship はナノテクノロジー・材料分野とも密接に関係している。

 

英国

UKRI、研究会議およびInnovate UK によるプログラムの例である。

① 未来のリーダー・フェローシップ(Future Leaders Fellowship)114

2018 年にUKRI が立ち上げた若手研究者向けの大型フェローシップである。11 年間で9 億ポンドという大規模な予算が充てられている。2018 年から2021 年の間に6 回の公募を行い、少なくとも550 人のフェローを支援することを予定している。キャリア初期の研究者やイノベータに対して最長7 年間のファンディングを提供し、それにより研究者が野心的・挑戦的な研究領域に挑戦しやすくなる。採択されたフェローには最初の4 年間で120 万ポンドが提供され、評価次第で続く3 年間も支援が受けられる。

本制度の目的は、次世代の技術起業家、ビジネスリーダー、イノベータがキャリア形成に必要なサポートを受けられよう支援することである。この制度は世界中の最高レベルの研究者に開放されており、出身国がどこであろうと、最も優れた人材を英国が引き続き獲得できるようにするものである。

② CASE studentships(Collaborative Awards in Science and Engineering)

CASE は、研究会議による博士課程学生のトレーニングのための奨学金プログラムである。学生は大学と企業双方で研究指導を受け、博士号を取得する。学生は大学に籍を置くが、最低3 か月間は企業での研究に従事しなければならない。支援負担の大部分は研究会議によるが、企業も追加的な資金提供を行う。名称や募集人数、予算等は研究会議ごとに異なるが、通常、対象期間は3 年~4 年、募集人数は各研究会議で年間30 名~90 名程度である。奨学金額は年間最低約1 万4,000 ポンドとされている。加えて企業による追加助成がある。小規模企業を除く参画企業は、研究プロジェクトの費用も一部負担する必要がある。

③ 知識移転パートナーシップ(Knowledge Transfer Partnerships: KTP)115

KTP は主に、ポスドクあるいは大学卒業者が通常1 年~3 年(最短10 週間)、企業において革新的なプロジェクトに参画するのを支援するプログラムである。Innovate UK が管理・運営を行っている。同プログラムは、企業と学術機関との連携を構築し、学術機関が有する知識やスキル、技術を用いて、英国の産業界の競争力や生産性を高めることを目的としている。企業にとっては、アカデミアのスキルや専門知識を獲得することができ、学術機関にとっては産業界との協力関係を築くことができるというメリットがある。

人件費、研究装置・材料費、間接経費等がプログラムの支援対象となる。中小企業の場合は総費用の3 分の1、大企業の場合は半分を自己負担し、残りを政府が負担する。

2013 年度のKTP 報告書116によると、実績として、同年度はプロジェクト全体で2.11 億ポンドの収益増加があり、450 以上雇用が新規に創出された。また、年間輸出額は2.07 億ポンドの増加となり、設備投資および研究開発投資は合わせて9,500 万ポンドにのぼった。これは、政府投資100 万ポンドにつき、25 の雇用が新規に創出され、353 人がトレーニングを受け、また、220万ポンドが設備投資に、306 万ポンドが研究開発に投資されたことになる。OECD が発表する、2006 年から2016 年の間に国境をまたいだ研究人材の移動(論文著者の所属先の移動を基にした集計)によれば 、英国の研究者の海外移動に関しては英国・米国間の移動が最も多く、英国から米国への移動が39,645 人、米国から英国への移動が38,238 人、合計77,883人であった。その次に英国との移動が多い国はドイツ(合計18,829 人)、オーストラリア(合計18,778 人)、カナダ(合計13,455 人)、フランス (合計12,794 人)の順となっている。英語圏の国々と欧州主要国間での移動が多いことが見て取れる。英国における主要なトップクラス研究拠点

研究分野 研究拠点 所在

概要

環境・エネルギー英国エネルギー研究センター(UKERC)ロンドン(研究拠点は全国各所)2004 年創設。持続可能な未来のエネルギーシステムに関する世界レベルの研究を実施。英国におけるエネルギー研究のハブであり、英国内外のエネルギー研究コミュニティをつなぐ窓口でもある。研究会議横断プログラムの一つである「低炭素未来のためのエネルギープログラム」により助成を受けている。

ライフサイエンス欧州バイオインフォマティクス研究所(EMBL-EBI)ヒンクストン(ケンブリッジシャー州)

欧州分子生物学研究所(EMBL)の一部門として1992 年

創設。バイオインフォマティクス関連のデータベース提供

と研究実施をおこなっている。運営資金の多くは、EU 諸

国を中心としたEMBL 参加国政府の拠出による。

情報科学技術ケンブリッジ大学コンピュータ研究所ケンブリッジ

1937 年創設。ケンブリッジ大学の組織で、コンピュータ科学、エンジニアリング、技術、数学といった分野の幅広い研究を実施している。ナノテクノロジー・材料ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所

ケンブリッジ1874 年創設。ケンブリッジ大学の物理学研究所。これまで29 名のノーベル賞受賞者を輩出。フランシス・クリックとジェームズ・ワトソンは、同研究所在籍当時にDNA の二重らせん構造をつきとめ、1962 年に医学生理学賞を受賞した。

その他、世界をリードするトップレベル研究拠点となることを目指して建設された研究所も多数存在する。ここでは代表例として、フランシス・クリック研究所(Francis Crick Institute)117国立グラフェン研究所(National Graphene Institute: NGI)118、アラン・チューリング研究所(Alan Turing Institute)119を紹介する。フランシス・クリック研究所新たな医薬品や治療法の開発など、基礎から応用への研究の実質的な橋渡しを実現するため、MRC、英国キャンサー・リサーチ、ウェルカム・トラスト、ユニバーシティー・カレッジ・ロン

ドン、インペリアル・カレッジ・ロンドン、キングス・カレッジ・ロンドンの6 機関の支援を得てロンドンに設立された研究開発機関である。研究所の建設に際してはこれら6 機関から総額で6.5 億ポンドの投資が行われた。職員数は約3,000 名(うち研究者は約1,500 名、支援スタッフは1,250 名)で、特に若手研究者をPI として国際公募により採用し、最長10 年活動できることが特徴である。同研究所をハブとして次世代を担う研究者を育て世界に送り込んでいくことが意図されているため、基本的にテニュアの研究者は存在しない。同研究所では、癌研究から心疾患、感染症など幅広い疾患の解明から診断・治療・予防法の開11発まで幅広い研究を実施している。英大手製薬企業(GSK やAstraZeneca 等)との連携による橋渡し研究遺伝子編集研究の実施も予定している国立グラフェン研究所グラフェン・グローバル研究技術拠点として、グラフェンに関する研究でノーベル物理学賞(2010 年)を受賞したアンドレ・ガイム博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士の勤務大学であるマンチェスター大学に設立された。2013 年に開始した研究所の建設作業は2015 年に終了し、現在、本格的に稼働している。同研究所には、EPSRC により3,800 万ポンドが、欧州地域開発ファンドにより2,300 万ポンドが投資され、グラフェンの研究開発を英国が世界をリードするための拠点としてグラフェンの実用化・産業化を目指している。アラン・チューリング研究所2014 年度予算によりその設立が発表され、2015 年にEPSRC、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、エジンバラ大学、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン、ウォーウィック大学の支援を得てロンドンに設立された研究機関。第二次世界大戦の際にドイツ軍の暗号通信の解読に貢献した英国の高名な数学者でありコンピュータ科学者でもあるアラン・チューリングの名を冠している。5 年間で4,200 万ポンドの政府投資を受ける。設立当初はデータサイエンスを研究対象としていたが、2017 年には人工知能(AI)も対象に加わった。2018 年にはロンドン大学ク

イーンメアリー校、リーズ大学、マンチェスター大学、ニューカッスル大学、サウサンプトン大学、バーミンガム大学、エクセター大学、ブリストル大学の8 大学も参加しさらにネットワークを拡充した。目標として、「世界レベルの研究を進め実社会の課題解決に適用する」「データサイエンス・AI分野で未来のリーダーを育成する」「市民との対話を進める」の3 つを掲げている

研究基盤整備

英国では、研究・イノベーションで自国が世界をリードできる立場にいられるのは、国際競争力が高く、高品質で、利用可能な研究・イノベーション・インフラネットワークに基づいているという認識がある。ここでいう研究・イノベーション・インフラとは以下を含むものである。 シンクロトロン、研究船、科学衛星などの物理的大規模研究施設

 データ・コンピューターシステム、コミュニケーションネットワークなどの技術・電子インフラネットワーク

 科学・文化・芸術コレクションやアーカイブを含む知識ベースの資源

産業戦略チャレンジ基金(ISCF)126

ISCF は産学共同研究開発によって産業界が抱える技術的・社会的課題解決を目的とするプログラムであり、Innovate UK が主体となりUKRI とも連携しながら推進している。2016 年に始まり、これまでに3 次にわたって計24 の技術テーマ (チャレンジ)が定められている。第1 次は政府として重要な6 テーマが、第2 次はセクターの要望を踏まえて8 テーマが決められた。その後、産業界と政府とのセクターディールを通じて「創造的産業クラスター」も技術テーマとして選ばれた。第3 次では前述の産業戦略で示された4 つのグランド・チャレンジに沿うテーマを、一般公募で募集し、集まった提案をもとにInnovaete UK、BEIS、財務省、大学と産業界とで密な議論を行い、9 つのテーマが定められた。ISCF はアメリカ国防高等研究計画局(DAPRA)をモデルとしており、チャレンジディレクターをテーマごとに選び、ディレクターの裁量のもとプロジェクトを推進する。ディレクターは産業界出身の人物が多いが、アカデミアからも選ばれている。

産業界からの資金提供が必須となっており、第1 次と第2 次の技術テーマでは政府と産業界で等分の、第3 次では政府1 に対し産業界から1.5 の割合で資金提供を求めている。第2 次までのチャレンジで既に9 億8,600 万ポンドが497 プロジェクトに投じられている。

各チャレンジの名称とそれぞれの政府予算は図表Ⅳ-10 の通りである。カタパルト・プログラム(Catapult Programme)127カタパルト・プログラムとは、特定の技術分野において英国が世界をリードする技術・イノベーションの拠点構築を目指すプログラムである。これらの拠点を産学連携の場として、企業やエンジニア、科学者が協力して最終段階に向けた研究開発を行い、イノベーション創出および研究成果の実用化を実現し、経済成長を推進することが意図されている。UKRI 傘下のInnovate UK

が所管するプログラムである。同プログラムでは2019 年12 月現在、10 の技術分野で拠点としてのカタパルト・センターが設置されている。カタパルト・センターとは、産業界が技術的課題を解決できるような世界トップレベルの技術力を生み出す場であると同時に、企業間の協力あるいは企業が解決できない部分に関しては大学等の知見を活用して英国で新しい製品やサービスが提供できるように長期的な投資を実現するプラットフォームでもある。同プログラムでは、研究成果の実用化に向けた主たる担い手は産業界であることが想定されており、産業界からの積極的なイニシアティブを通じた研究開発の促進が目指されている。Innovate UK を通じて投入される公的資金は、研究プロジェクト実施のためではなく、基本的にはカタパルト・センターの運営のために使用される。施設等のインフラ改善などのプロジェクトに公的資金が用いられる場合もあるが、これは例外的なケースである。この意味で、カタパルト・プログラム自体はファンディングを実施する母体ではない。カタパルト・センターの運営資金として、Innovate UK からの政府資金、産業界からの資金提供、獲得した外部資金の割合がそれぞれ3 分の1 ずつになることが理想とされている。カタパルト・プログラムにおける産学官の橋渡しの仕組みは次の4 点である。

 既存の研究インフラを活用した持続可能な拠点整備

 研究開発の早い段階から産学官連携が実現できるような産業界主導の研究開発推進

 英国の中小企業の取り込みとその科学技術力の強化

 地方の研究開発力の強化

カタパルト・プログラムが対象とする技術成熟度レベル(Technology

Readiness Levels: TRL)は、TRL3(概念実証)からTRL8(性能実証)をカバーしている。__中小企業支援(SBRI)中小企業研究イニシアティブ(Small Business Research Initiative: SBRI)は、公共調達を利用して中小企業によるイノベーションを促進しようとする研究助成プログラムであり、2001 年に開始され、Innovate UK が運営している。開始当初は、中小企業に委託される研究開発の内容や具体的な選定プロセス等が明示されず、各省の研究開発予算の2.5%という数値目標、および、これを各省庁のウェブサイトで広く公募することのみが定められ、実際の細目は各省庁に任せられていた。このため、参加した省庁も限られ、かつ委託が従来の手法にとどまったため、期待された効果が得られなかった。そこで、セインズベリー・レビュー等におけるSBRI 改革の提案を踏まえて、2008 年に制度改革に向けたパイロットプロジェクトが実施され、2009 年から改革版SBRI が本格的に導入されている。SBRI では比較的初期の段階にある企業のシーズに対するファンディングの需要ギャップ

を埋める役割を担っている。参加企業全体の約66%がスタートアップや中小企業であり、これら企業にとってSBRI 契約を交わしてプロジェクトを実施することは新たなビジネスチャンスを見出し、独自のアイデアを市場へとつなげる機会を得ることを意味する。SBRI のフェーズI はプルーフ・オブ・コンセプトの段階で、最長6 か月で最大10 万ポンド支給される。フェーズII はプロトタイプの作成・開発の段階で、最長2 年で最大100 万ポンドが支給される。プロジェクトの過程で生まれた知的財産は当該企業の所有となり、Innovate UK では扱わない。

例えば成功事例の一つに、PolyPhotonix 社によるNoctura 400 Sleep Mask(失明等の恐れがある眼疾患の患者が睡眠中に治療の一環として用いるマスク)の開発と実用化が挙げられる。同社の2015 年度の収益は300 万ポンド以上となっている。また同社で開発された顔のそばかす除去技術は、カタパルト・プログラムの一つである高価値製造業カタパルト・センターのプロセスイノベーションセンター(CPI)において実用化が図られている。2009 年4 月以降の新生SBRI では、国防省、保健省(当時)など82 の省庁・公的機関が360 の公募を行い、3,060 件ものSBRI 契約を交わし、その額は4.7 億ポンドに上る(2017年10 月時点)。

④ イノベーション・バウチャー(Innovation Vaouchers)

イノベーション・バウチャーはInnovate UK が実施しているプログラムで、企業が新たな知識を独自のネットワーク外に模索することができるよう、大学や公的研究機関などと中小企業による産学連携・技術移転を促進するためのバウチャー制度である。中小企業やスタートアップ企業は、最大5,000 ポンドのバウチャーを、自身が希望する大学や

公的研究機関の専門家から知識や技術移転を受けるための支払いに利用することができる。バウチャーを利用することができるのは、これまでInnovate UK からイノベーション・バウチャーを助成されたことのない企業で、当該企業にとっての課題解決のために必要なアイデアを専門家から得ることが可能となる。このアイデアがInnovate UK が指定するテーマの一つに当てはまるという条件も重要である。Innovate UK は3 か月ごとにテーマを特定した募集を行い、応募者の中から約100 件が選定されることになっている。__

環境・エネルギー、ライフサイエンス・臨床医学、システム・情報科学技術、ナノ

テクノロジー・材料

環境・エネルギー分野2008 年に気候変動法を制定し、温室効果ガスの排出量を2050 年に1990 年比で80%以上削減することを定めた。その後、政府は2009 年の第15 回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)を主導する立場をアピールしたり、低炭素社会へ移行するための計画や施策を発表したりと、世界をリードする環境立国となるべく環境・エネルギー分野において様々な取り組みを行っている。2008 年組織改編があり、環境・食糧・農村地域省(Defra)の一部とビジネス・企業・規制改革省(BERR)(当時)の一部が統合してエネルギー・気候変動省(DECC)(当時)が設立され、気候変動やエネルギーに関する業務を専門的に所管することとなった。環境・エネルギー技術分野の研究開発については、DECC は科学研究推進の中心的担い手であるビジネス・イノベーショ

ン・技能省(BIS)(当時)と連携して推進策を策定してきたが、冒頭に述べたとおり、2016 年7月の省庁再編に伴い、現在はビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に統合されている。2009 年には、BIS(当時)、DECC(当時)、運輸省(DfT)から職員や資金が提供される形で低公害車両局 (OLEV129)がBIS(当時)内に設置された。OLEV は、温室効果ガス、大気汚染の削減および経済成長に資するため、超低公害車両の迅速な市場化を支援している。2009 年7 月にDECC(当時)から発表された気候変動とエネルギーに関する国家戦略「英国の低炭素経済への移行計画」130は、2020 年までに温室効果ガスを1990 年比で34%削減するという目標をどのように達成するべきかについて示す包括的な文書である。この計画をより詳細に示した文書が同年同月に3 つ発表された。まず、BERR(当時)とDECC(当時)による「英国の低炭素産業戦略」131は、低炭素社会への移行に伴う経済機会を最大限に活用しつつ、移行に伴う費用を最小限に抑えるための計画である。同戦略では、最大1 億2,000万ポンドを洋上風力技術に、6,000 万ポンドを波力・潮力技術に、9,000 万ポンドを炭素回収・貯留(CCS)技術に措置することを明らかにした。次にDECC(当時)による「再生可能エネルギー戦略」132では、2020 年までに使用エネルギーの15%を再生可能エネルギーで供給するという目標に向けた具体的な施策が示された。その目標達成の過程では、再生可能エネルギー分野に1,000 億ポンドの新規投資と50 万もの新規雇用創出が期待されている。再生可能エネルギーによる電力供給のため、英国政府は、風力、水力、波力・潮力、バイオマスなどの利用を拡大しよう

としている。最後に、DfT から発表された「低炭素輸送:よりグリーンな未来」133では、英国内で排出される温室効果ガスの21%を占める輸送による排出に関して、低炭素技術を用いることで2050 年までに1990 年比で80%削減するという目標にどのように貢献するのかについて示している。DECC(当時)は2010 年7 月、2050 年の英国のエネルギー需要や温室効果ガス排出に関して、初の包括的かつ長期的な分析結果である「2050 年までの展望」134を発表した。同文書は、温室効果ガスを2050 年までに1990 年比で80%削減するとの目標を達成するために、今後40 年の間に対応すべき選択や条件などについて分析している。さらに2011 年12 月にはDECC(当時)から「炭素計画:低炭素未来実現に向けて」135が発表され、エネルギー政策のフレームワークの中で炭素削減を実現していく一連の計画が明示された。環境・エネルギー関連分野における研究開発に関する戦略文書としては、低炭素社会に向けて複合材料開発を推進するための「英国複合材料戦略」136を2009 年にBIS(当時)が、CCS の開発と整備を推進するための「CCS 産業戦略」137を2010 年にDECC(当時)とBIS(当時)が共同で発表している。

近年、BIS(当時)内にOLEV が設置されたように、英国では超低公害車両の開発や市場化に注力している。OLEV は2013 年9 月に「英国における超低公害車両戦略」138を発表し、2050年までの温室効果ガス排出量削減計画を達成できるよう、超低公害車両の実用化に関する政府計画を示した。また財務省による2013 年秋の予算編成方針では、2014 年度に、公的セクター車両のための電気による超低公害車両開発プログラムに500 万ポンドを投資することが約束された。2016 年度の予算では、原子力造技術プログラム(Nuclear Manufacturing Programme)への支援が明記された。小型モジュール炉を特定する公募の開始と併せて、21 世紀の原子力製造技術プログラム向けに3,000 万ポンド以上が割り当てられることが約束されている。これにより、高価値製造業カタパルトの一つである原子力先進製造業研究センターやサー・ヘンリー・ロイス先端材料研究所など、北部の原子力研究中核拠点の機会創出を図ることが目指されている。2017 年10 月にはBEIS より「クリーン成長戦略」が発表された。これは、歳出削減を図る一方で消費者向けのコストダウンを維持し、良質の雇用を創出し経済の成長を図るという高い目標を持つ内容で、政府の産業戦略の重要な一要素を成すものである。先述のとおり、2017 年11 月に発表された産業戦略における重要領域の一つにクリーン成長が特定された。クリーン成長へのグローバルなシフトを背景に、英国産業の利益の最大化を図ることが目指されている。関連する政府の取組として、2021 年度に向けて大幅なエネルギー・イノベーション投資を行うことが掲げられ、低炭素産業に関するイノベーションに対しては1.62 億ポンドの投資が約束されている。また、バイオエコノミーに関する新規戦略の策定計画も発表された。

2019 年6 月、英国政府は2050 年までに温室効果ガスのネット排出量を正味ゼロにすることを法定の政策目標とするため、2008 年気候変動法の改正案を可決した。世界主要7 ヶ国(G7)の中で、2050 年までのネット排出量ゼロを法制化したのは英国が初であった。英国政府が拠出する環境・エネルギー分野の研究費は主として、BEIS、NERC、EPSRC、Innovate UK 等から拠出されている。NERC における科学研究の主要テーマは、「気候システム」、「生物多様性」、「天然資源の持続可能な使用」、「地球システム科学」、「自然災害」、「環境・公害・健康」および「(環境関連)技術」の7 つである。EPSRC は、優先研究テーマの中に「エネルギー」と「環境変化との共生」を挙げている。Innovate UK が推進する、主要な社会的問題に対するイノベーティブな製品のリードマーケットを構築するために、産学官が共同で特定の課題に取り組むためのプログラムであるイノベーションプラットフォーム(Innovation Platform)がある。同プラットフォームのテーマの一つに「環境に配慮した建築」が含まれており、5 年間(2014 年

度~2018 年度)で産業的に可能かつ環境に優しい低炭素建築物の開発が進められた。

2019 年には、BEIS 大臣によって国内の企業や研究者による技術革新を支援する新施策が発表された。核融合技術へのイノベーション投資を通じて今後新たな核融合施設や実習制度を展開していくことや、次世代の最先端自動車技術への追加投資により電気自動車の生産に必要なサプライチェーンの開発を進める。この新施策を通じ、気候変動対策における自国分担の完了に向けたセクター全体の振興が目指される。

 

ライフサイエンス・臨床医学分野

英国のライフサイエンス分野の国際競争力は高く、政府から措置される研究費の割合は大きい。英国経済に毎年600 億ポンド強と22 万件強の雇用をもたらし、国民保健サービス(NHS)と英国の患者が日常的に依存する製品を提供する世界トップクラスのレベルを誇っている。また、産業界のライフサイエンス分野に対する英国の研究開発投資額は欧州の中で一番多い。そのため政府は、ライフサイエンス分野を英国の強みとするべく、2009 年にライフサイエンス局(Office for Life Sciences)をビジネス・イノベーション・技能省(BIS)(当時)内に設置するなど、同分野の強化に注力してきた。英国での臨床医学研究については、NHS が臨床試験の実施主体として重要な役割を担っている。

バイオサイエンス振興政策として、貿易産業省(当時)、保健省(当時)およびバイオインダストリー協会が共同で2003 年に「バイオサイエンス2015」139を発表した。この文書では、6 つの中核目標とそれに付随する提言とともに、バイオサイエンスに関して政府による全体的な戦略が示された。健康分野の研究に関するインディペンデント・レビューとして、クックシー・レビュー140が2006年に発表されている。これは、医療研究へのファンディングに関する提言である。その中で提案された医療研究を戦略的に連携するオフィスとして、医療研究戦略連携局(OSCHR)が2008 年に設立された。OSCHR は、MRC と国立衛生研究所(NIHR)における医療研究・助成を効率的かつ効果的に行うための戦略を立案する組織である。2009 年、ライフサイエンス局が中心となり、ライフサイエンス企業を取り巻く英国のビジネス環境を改善するための方策について産業界と協力して取りまとめたのが「ライフサイエンスの青写真」141である。この文書では、英国のライフサイエンス産業を研究強化も含めて支援する政府の姿勢と計画が表明された。翌2010 年には「ライフサイエンス2010:青写真の実現に向けて」142が発表され、「ライフサイエンスの青写真」の実施に関連する活動や成果の進捗状況等、より具体的な計画が示された。

2011 年12 月、ライフサイエンス分野への投資を呼び込むべく、英国のライフサイエンス産業を成長・成功させるための10 か年戦略として「英国ライフサイエンス戦略」143が、BIS(当時)および保健省(当時)から共同で発表された。同戦略では、研究の発明・開発・商業化を支援するために3.1 億ポンドの公的投資を実施することが明らかにされた。うち1.3 億ポンドは層別化医療(stratified medicine)の研究に、残りの1.8 億ポンドは研究開発のいわゆる「死の谷」の克服を目指す橋渡し支援プログラムに措置されることが示された。2012 年12 月には、財務省から「英国ライフサイエンス戦略:1 年後」144という文書が発表され、同戦略策定から1 年間の進捗状況が報告された。

2012 年3 月には、MRC が中心となり、BBSRC、EPSRC、ESRC および技術戦略審議会(TSB)(当時)が共同で「英国再生医療戦略」145を策定・発表した。これは、生物学研究の成果を、患者にも英国経済にも利益となるような臨床の現場へと移行させることを目指した戦略計画で、橋渡し研究に7,500 万ポンドを投資することを約束している。

2013 年7 月にBIS(当時)から発表された「英国農業技術戦略」146は、英国の政府と産業界が協力して同国の農業技術セクターの強みを特定し、機会を見出そうとした最初の試みである。2017 年11 月に発表された産業戦略では、セクター協定(セクターの生産性向上を目的とする政府・産業界間提携)を開始し展開することが明記され、最初のセクター協定の一つにライフサイエンスが含まれた。ライフサイエンスに関連する英国の主な助成機関は、BBSRC、MRC、EPSRC、Innovate UK、保健・社会福祉省(DHSC)、NIHR で、その他にウェルカム・トラストや英国キャンサー・リサーチ等のチャリティ団体から多額の研究費が支出されている。BBSRC では、「持続可能な農業・食糧のためのバイオサイエンス」、「再生可能資源・クリーン成長のためのバイオサイエンス」、「健

康の統合的理解のためのバイオサイエンス」を戦略的に取り組むべき課題としている。MRC は優先研究テーマとして「予防・早期発見」、「精密医療」、「マルチモビディティ」、「先端治療」、「メンタルヘルス」、「抗微生物薬耐性」、「グローバルヘルス」の7 つを挙げている。EPSRC は、優先研究テーマの中に「ヘルスケア技術」と「環境変化との共生」を挙げている。Innovate UK が推進するイノベーション・プラットフォームのテーマに、「介護付き生活」、「持続可能な農業と食物」および「層別化医療」の3 つが含まれている。__ス戦略、政府クラウド戦略の3 つで構成されている。ICT に関連した主なインディペンデント・レビューとして、「次世代アクセスへの投資に対する障害」149が2008 年9 月に発表された。これは、英国における次世代ブロードバンドの拡大を

阻む障害について調査したレビューである。科学技術会議(CST)は2010 年11 月、「デジタル・インフラ」150と題する書簡を政府に提出し、良好な経過をたどってきたブロードバンドのインフラ整備を今後も優先していくべき等の提言を行った。さらに2013 年8 月には、DCMS 大臣およびBIS(当時)大学・科学担当大臣宛の書簡において、デジタル・インフラの整備を継続し、英国内におけるブロードバンドの速度や受信地域の現状改善を行うよう訴えている。2016 年11 月にはサイバーセキュリティ国家戦略(2016 年~2021 年)が新たに発表され、2011年から実行されている当初戦略によるファンディング支援がほぼ倍増の19 億ポンド措置されることが明らかになり、防衛(Defend)、阻止(Deter)、開発(Develop)の3 つを主要領域に特化した施策が講じられている。

また先述の新産業戦略では、10 億ポンド強の公共投資によりデジタル・インフラを増強していくことが打ち出された。これには5G 向けの1.76 億ポンドおよび各地域の全面光ファイバー網の展開促進に対する2 億ポンドが含まれている。ICT 分野に関する主な公的助成機関は、EPSRC、Innovate UK である。EPSRC は、優先研究

テーマの中に「デジタルエコノミー」と「ICT」を挙げている。先述のカタパルト・センターの一つであるデジタル・カタパルト・センターでは、その性質か

ら中小企業やスタートアップ企業のような比較的規模の小さい企業が参加しやすい環境にある。優れた研究成果については、カタパルトのプロジェクトと関係ないものでも、3 か月という期間を限定的に設けて無償でセンター内に展示する等の試みを行っている。

ナノテクノロジー・材料分野

英国のナノテク戦略の基礎となる「製造の新しい方向性:英国のナノテクノロジーのための戦略」が貿易産業省(当時)から発表されたのは2002 年である。2010 年には「英国ナノテクノロジー戦略」151がBIS(当時)から発表された。同戦略は、ナノテクノロジーから英国民が安全に得られる社会的・経済的利益を確保するために政府がとるべき行動について明示している。またBIS(当時)は、複合材料開発を推進するための戦略である「英国複合材料戦略」152を2009年に発表した。同戦略は、英国が目指す低炭素社会の構築に向けて、より耐久性が高く軽量かつ高性能な複合材料を開発し、加えて同分野の産業を競争力の高いものにすることを目指している。この戦略では、国立複合材料センター(NCC)153を設立するために1,600 万ポンドの政府投資が

なされることも約束された。このNCC は、現在ではカタパルト・センターの一つである高価値製造業カタパルトを構成する研究所となっている。同センターは、製造業セクターの振興および英国のGDP 増加に貢献することを長期目標に掲げている。

政府が投資するナノテク・材料分野の研究費は主に、EPSRC やInnovate UK 等から拠出されている。EPSRC は、優先研究テーマの中に「エンジニアリング」を挙げており、その関連研究分野として「材料エンジニアリング:セラミック、複合材料、金属・合金」が含まれている。2014 年開始のUK National Quantum Technologies Programme では、5 年で2 億7,000 万ポンドを投資し、4 つの研究ハブを中心に量子技術分野の研究開発を進めた。2019 年から5 年間、3 億2,000 万ポンドに増額され第二期が始まっている。__

 

ドイツ

科学技術関連組織と科学技術政策立案体制

ドイツにおける科学・イノベーションの主要所管省は連邦教育研究省(BMBF)である。BMBF

は連邦政府の研究開発関連予算の約60%を管理し、また様々な研究開発戦略を立案している。

BMBF はその組織内にも研究開発戦略を調整・調査・立案などをする部署を設けているが、BMBF

単体で決定するのではなく外部の機関からの助言や協力を得ながら各種の戦略を作成している。

それらの機関の中で重要なものとして、メンバーが連邦政府及び州政府の関連省庁から参加し

て科学技術関連の協議をおこなう合同科学会議 (GWK)155、大学、企業、有識者により構成さ

れ、ハイテク戦略の策定・評価、に関与するBMBF の諮問組織であるハイテク・フォーラム156、

国際的に著名な研究者により構成され研究・イノベーション・技術に関する評価や意見書・報告

書を連邦政府に提出する研究イノベーション審議会(EFI)157、連邦政府および州政府により運

営され両政府への科学的助言をおこなう科学審議会(WR)158がある。ドイツは歴史的な経緯か

ら州政府が多くの権限を持つ連邦国家であり、文化、教育および研究は州の権限とされている。

しかし近年、大学および大学の研究力の強化はドイツの最優先事項の一つであり、連邦政府は大

学の競争を促し、また教育や研究への支出を増やすなど連邦と州が共同で施策実施にあたってい

る。各分野の科学・イノベーション政策については、連邦経済エネルギー省(BMWi)159、連邦食料・

農業省(BMEL)160、連邦交通・デジタル社会資本省(BMVI)161などが関わっている。その中で

も特にBMWi は連邦政府の支出する研究開発予算の約20%を管理し、BMBF に次いで科学・イノベ

ーション政策において重要な省となっている。これらの内容を示したのが次ページの図表V-1 である。

研究資金助成機関としては、BMBF を所管省として、主に大学における基礎研究を対象とした

研究資金助成をおこなっているドイツ研究振興協会(DFG)、連邦政府と一体化して機能し、主

にトップダウンの政策目標に資する研究助成を代行するプロジェクト・エージェンシーなどがあ

る。プロジェクト・エージェンシーは様々な研究機関、民間企業、非営利団体などに政府が業務

を委託している。__研究開発実施機関としては、大学の他に、マックス・プランク科学振興協会(以下、マックス・

プランク協会)、フラウンホーファー応用研究促進協会(フラウンホーファー協会)、ヘルムホル

ツ協会ドイツ研究センター(ヘルムホルツ協会)、ライプニッツ科学連合(ライプニッツ連合)な

どの公的助成を受ける研究協会、連邦政府や州政府直属の研究所、学術アカデミーなどがあり、

また民間企業などによる研究開発も活発である。

ファンディング・システム

ドイツのファンディング・システムは、連邦政府と16 ある州政府との間で分担されており、

少々複雑になっている。

ドイツ全体の研究開発資金の負担比率は、2016 年に政府(連邦・州)が28.5%、産業界が65.2%

であり、海外からの研究開発資金も5.9 %162ある。これはほとんどがEU のファンディングであ

る。政府研究開発支出の分担比率は、2016 年予算で連邦政府が約55.8%、州政府が約44.2%と

なっている。連邦政府における研究開発の主要官庁は、BMBF およびBMWi であり、2018 年の研究開発予算の88.2%は両省に連邦防衛省(BMVg)を加えた3 省に配分されている。172.5 億ユーロのう

ち、約60.8%をBMBF、約21.4%がBMWi に配分されている。BMBF や各州政府は、マックス・プランク科学振興協会などの研究協会、国立研究所などの機関助成金を負担している。大学の運営費は州政府が大部分を負担し、研究協会・国立研究所については主に連邦政府が助成しているが、後述のエクセレンス・イニシアティブの開始などにより連邦政府から大学への資金の流れが増加している。

次に競争的研究資金について述べる。連邦政府の研究開発資金のうち、トップダウン型で特定

の課題に関する研究を行うプロジェクト・ファンディングと呼ばれるタイプのファンディングで

は、管理・運営業務を委託する機関(プロジェクト・エージェンシーと呼ぶ)を一般に公募し、

省庁がその機関と一緒に、研究所、大学、企業の意見を収集し、戦略やプログラムを取りまとめ

る。連邦政府による助成は、政府が直接行う場合と、プロジェクト・エージェンシーを経由して

助成する場合がある。プロジェクト・エージェンシーには、例えばヘルムホルツ協会の研究所の

一つであるユーリッヒ研究センターやVDI/VDE(元々は電気技術者の協会)などがあり、専門

的な科学技術の知見を元に戦略やプログラムを立案し、実施している。プロジェクト・ファンデ

ィング全体の規模は2017 年(政府予算案)、83 億ユーロである。

一方、基礎的研究に対する競争的資金による支援については、ドイツ研究振興協会(DFG)が

実施している。DFG はボトムアップで基礎的な研究を支援するとともに、様々な科学関連の表彰、

研究者招聘プログラムの実施などの業務を行う。また後述のエクセレンス・ストラテジーの運営

を連邦政府から受託して実施している。DFG の2018 年度の予算は約32.5 億ユーロである163。

公的研究機関の資金割合を見ると、マックス・プランク協会は2018 年度、19.5 億ユーロのうち

89%を機関助成金として受け取り、フラウンホーファー協会は23.7 億ユーロの総予算のうち34%

が機関助成金であった。研究協会間で資金の獲得割合に大きな差があることがわかる164。

ハイテク戦略に掲げられているミッション

① 社会的課題解決におけるミッション

がん治療の効果を上げ、がん患者の余命を伸ばすためにがん研究を強化する。予防、

早期発見、診断、治療の改善を図る。

患者カルテの電子化とそれに伴うデータ保護の強化を促進する。2025 年までにドイ

ツ国内の大学病院に電子カルテシステムを導入する。

プラスチックゴミ削減のために、2025 年までに植物由来のプラスチック製造を推進

したり、効率的なリサイクリングが可能な物質を開発したり、同じような課題を抱

える他の地域と連携するなどして研究開発を促進する。

環境保護計画2050 を実現するため1990 年当時の85-90%程度のCO2 排出量を目

指し、生産プロセスの改善や循環型経済の実現を推進する。

効率のよい資源の利用とデジタル化による革新的なビジネスモデルを創出すること

で生産性を上げる。多様な種を守るため、革新的なツールや新たな指標を用い環境の評価を実施する。自動走行、電気や燃料電池自動車など、この領域は大きなイノベーションの端緒に

置かれている。充電施設の整備、法規制の緩和、EU の方針なども含んだ包括的な

実用化施策を実施する。ドイツ国内での電池生産のための技術開発とサプライチェーン構築を支援する。経済構造や人口動態の変化に伴う都市と地方の格差をデジタルの力で埋め、環境に

配慮した形で生活の質を高める。人口の高齢化に伴い労働力の不足が懸念されている中で、アシスタントシステムやロボットの活用で、労働の負荷を軽減する。安全や健康を含め、社会におけるロボ

ットの受容など包括的な措置を実施する。

② 未来技術におけるミッション

ドイツならびに欧州をAI の研究開発実用化の拠点 とし 、人材を確保しながら、

多様な応用領域を巻き込むことで AI をベースとしたビジネスモデルを構築する。

③ オープンなイノベーション環境と起業文化の創成におけるミッション

オープン・アクセス、オープン・サイエンス、オープン・データ、オープン・イノ

ベーションの原則によって最新の科学 の創出に貢献する。

ドイツが重点的に取り組む6 つの優先課題を「新ハイテク戦略」と比較すると、以下のように

なる。新ハイテク戦略では最優先課題として位置づけられていたデジタル化への対応が項目から

はずれた。デジタル化は単独の課題ではなく、全ての課題に共通問題として捉えられている。他

には、国内の地域間格差をイノベーション創出促進で是正するという課題が新たに追加されてい

る。

技術シーズ型の重点化戦略だった「ハイテク戦略(2006 年)」に掲げられていた経済的、技術

的に最重要と位置づけた重点技術は、「ハイテク戦略2020(2010 年)」ならびに「新ハイテク戦

略(2014 年)」では特定されず、社会的課題の解決に必要な技術を動員するという表現に止まっ

ていた。しかし、今回のハイテク戦略2025 で注目すべき点として、ドイツが次代の技術革新の

中心であるために、重点研究開発領域を定め、研究者や技術者などの高度人材の育成し、併せて

市民社会による理解を深め参加を促すツールを改めて提示したことは注目に値する。__

エクセレンス大学に採択された11 大学

(1) アーヘン工科大学

(2) ベルリン大学連合(ベルリン工科大、ベルリン自由大、フンボルト大、シャリテ医科大)

(3) ボン大学

(4) ドレスデン工科大学

(5) ハンブルク大学

(6) ハイデルベルク大学

(7) カールスルーエ工科大学

(8) コンスタンツ大学

(9) ミュンヘン大学

(10) ミュンヘン工科大学

(11) チュービンゲン大学

研究拠点・基盤整備

BMBF は2011 年に研究基盤政策の「ロードマップ176」 を発表した。さまざまな基盤プロジ

ェクトの科学的な方向性、戦略的な科学技術政策の優先順位、ならびに社会的課題解決の可能性、

実用化に向けた経済性の判断などの評価を目的としている。さらにこれらの研究拠点では、若手

研究者の育成や技術移転なども期待されている。この政策の核となるのは、科学審議会

(Wissenschaftsrat)による科学的なレビューで、さらに助成機関であるプロジェクト・エージェ

ンシーが外部専門家を交えて、社会的なニーズや採算性の評価を提出する。この科学と経済両面

からの審査に基づいて同省は拠点整備を行い、今後の科学技術政策の優先順位を決める手がかり

とすることになっている。従来の27 拠点に加えて次に挙げる3 拠点が2019 年新たに追加された。

追加された各拠点には設立準備資金として、それぞれ5,000 万ユーロを越える助成が実施される

見込み。

① ACTRIS-D177

エアロゾル、雲、微量ガスの研究拠点(ACTRIS-D)は、気候モデルとその予測力を大幅に向

上させることを目的とし、気候および大気研究のための全国的な研究ネットワークを構築する。

ACTRIS-D は欧州ESFRI ロードマップ2016 のACTRIS178の一部であり、欧州全体で20 ヶ国

120 を越える機関が連携している。ドイツの拠点はライプチヒのライプニッツ連合対流圏研究所

(Leibniz Institute for Tropospheric Research/TROPOS)に置かれ、EU 資金による準備フェー

ズプロジェクト(PPP 2017-2019)として推進されている。同プロジェクトにおいて、TROPOS

は、ACTRIS インフラ(観測所、測定ステーション、シミュレーションチャンバー)の標準開発

を主導、欧州エアロゾルキャリブレーションセンターの設立を推進し、研究インフラストラクチ

ャの設計と関連するすべての標準作成に積極的に参加する。TROPOS の他、ドイツ国内の12 大

学・研究所が同プロジェクトに参加している。

② ER-C 2.0(Ernst-Ruska Center 2.0)

金属や細胞組織などの材料の構造と特性を解明するための高解像度電子顕微鏡研究を行う。新

しい有効成分と治癒プロセスのための新材料とアプローチの開発が可能になると期待されている

研究で、拠点はヘルムホルツ協会のユーリッヒ研究センターとアーヘン工科大が共同で運営する

エルンスト・ルスカセンター179に置かれている。

③ LPI(ライプニッツ・フォトニクス・センター)180

フォトニックスと感染症研究と組み合わせ、研究成果を速やかに臨床診療に移すことを目指し

た研究拠点としてイエナに設置された。迅速な診断方法と新しい治療法に資するフォトニック技

術、光をツールとして使用する方法とプロセスは、非接触で迅速かつ高感度な測定を実現し、微

生物がどのように病気を引き起こすか、ヒトの身体がどのように防御するか、これらのプロセス

がどのように影響を受けるかをよりよく理解することが期待されている。

この他、2019 年にBMBF から研究開発のデジタル化戦略「デジタルの未来(Digitale Zukunft181)

」が出されている。その前年、16 の州と連邦政府の文科大臣会合(GWK)でドイツ研

究データインフラストラクチャ(NDFI)構築が決まった。連邦と州が共同でNDFI に助成を実

施、参加コンソーシアムの公募が2019 年に始まったところである。NFDI 構築の目的は、従来

の研究データは分散的で時限的に保存されていたが、これを共通の基盤上に集積して「使えるデ

ータ」にすることで研究開発を推進するものである。2019 年から2028 年の10 年間に9,000 万

ユーロ/年を限度額に助成が予定されている。計画では30 の大学や研究機関を単位としたコンソ

ーシアムを採択し組織横断的なデータ収集と利用機会の提供ができるようにする。公募のレビュ

ーはドイツ研究振興協会(DFG)182が担当し、GWK がDFG の評価に基づいて採択を決める。__端クラスター競争プログラムから採択されたのは、BioRN、EMN、Hamburg Aviation、Software-Cluster

および、BioEconomy、BioM、Cool Solicon、E-Mobility SW、Forum Organic Electronics、

MAI Carbon である。(1) エネルギー効率の高いAI ハードウェアの設計(助成期間1 年/金額不明)

(2) ミニ臓器の培養(助成期間3 年/最大助成額300 万ユーロ)(3) 高性能/低価格蓄電池開発(初年度/25 万ユーロ、本格フェーズ3 年/総額500 万ユーロ)環境・エネルギー分野

ライフサイエンス・臨床医学分野世界的な食糧の確保、持続性のある農業生産、食の安全性、再生可能資源の

産業利用、バイオマスを基本としたエネルギー源の5 つのフィールドを示している。バイオテク

ノロジーのイノベーション力を、医薬・化学産業のみならず、農林業やエネルギー産業の分野で

も活用したいとしている。「国家研究戦略バイオエコノミー 2030」には2011~2018 年までに24

億ユーロあまりを投入の見込みとなっている。また健康研究の分野では、BMBF は2010 年「健康研究基本プログラム」195を制定し、今後の医学研究の戦略的方針を定めた。重点領域として、①糖尿病、心臓病などの国民的疾患研究、②個別化医療研究、③予防、健康医学、④看護、介護研究、⑤健康関連産業、⑥国際共同研究を挙げている

ライフサイエンスは、「ハイテク戦略2025」の中でも、6 つの重点分野のひとつとして位置付

けられている。社会的課題解決のミッションとして、 がん治療の効果を上げ、がん患者の余命を 伸ばすためにがん研究を強化する。予防、早期発見、診断、治療の改善を図る。

 患者カルテの電子化とそれに伴うデータ保護の強化を促進する。2025 年までにドイツ国

内の大学病院に電子カルテシステムを導入する。の2 つが策定されている。第三期では、特に個別化医療(プレシジョン・メディスン)に重点を置くことが決まっている。さらに、2011 年11 月には研究アジ

ェンダ「未来ある長寿」196を閣議決定し、この中でも疾病の早期発見・早期治療、高齢化する社

会における自立や行動を重点項目と位置づけている。

システム・情報科学技術分野連邦政府は、「デジタルアジェンダ2014-2017」197を発表。経済成長と雇用を確保するためにデジタル化を大きなチャンスととらえ、ブロードバンドの普及、デジタル化時代の労働、イノベーションのインフラ、教育と研究、サイバーセキュリティと国際的なデジタルネットワークにつ

いての行動計画を示した。同アジェンダの核になるのは以下の4 点である。

① インフラストラクチャ2018 年までに全世帯が、少なくとも毎秒50 メガビットのダウンロード速度でインターネットに接続② 製業のデジタル化ベンチャー支援、クラウドコンピューティングやビッグデータ技術をサポート製造業デジタル化政策インダストリー4.0198の推進

③ 個人情報のデジタル化

グローバルIT 企業が構築するデータ社会とは一線を画し、国として推進するマイナンバー

制度の整備など

④ 個人情報の保護とサイバーセキュリティ

データ保護、サイバー攻撃対策の強化 人材の育成

デジタルアジェンダ2014-2017 は主としてBMWi、BMVI 、BMI(連邦内務省)が管掌して

いる。2015年にはBMWi からデジタルアジェンダの具体的な方針となる「デジタル戦略2025199」

が発表され、研究開発から産業促進まで含めた10 項目の強化指針が示された。

これに先立ち連邦政府は、2010 年11 月に政府の包括的ICT 戦略「ドイツ・デジタル2015」ドイツ初のインターネット研究に特化した研究所として「ヨーゼフ・バイツェンバウム研究所201」

が2017 年始動した。領域横断的な研究を踏まえ、デジタル化を法整備や経済効果の把握まで包括

的に研究、分析する組織を目指し、公募によってベルリン自由大学、ベルリン工科大学、フンボル

ト大学、ベルリン芸術大学、ポツダム大学およびフラウンホーファーオープン通信システム研究所

(FOKUS)からなるコンソーシアムが採択された2019 年~2025 年までに基盤的経費

を含め研究開発費として30 億ユーロ規模の投資をすることを発表した。AI の実用化に向けて、

基礎研究から応用研究へ連携と国際連携の重要性を強調している。国際連携については、ドイツ

に先んじて今年初めにAI 戦略を発表したフランスとの連携をベースに、EU の枠内での研究開発

を推進することが記述されている。「ハイテク戦略2025」下の社会課題解決のたナノテクノロジー・材料分野、①ナノテクプラットフォームの構築、②エネルギー、交通、医療、建築、機械分野

への応用、③持続可能で高効率な資源利用、④産学連携を基本コンセプトとして、各プロジェク

トが運営されることになっている連邦政府は「量子戦略」を発表し、2018 年~2022 年の4 年あまりで6.5 億ユーロを投資する。重点領域として、第二世代の量子コンピューティング(コンピューター、シミュ

レーションなど)、量子コミュニケーション(通信、セキュリティ技術など)、計測(精密計測技

術、衛星、ナビゲーション技術など)の開発のほか、量子分野の技術移転と産業の参画推進をあ

げている。「ハイテク戦略2025」下の社会課題解決のため、自動走行、電気や燃料電池自動車な

ど、この領域は大きなイノベーションの端緒に置かれている。充電施設の整備、法規制の緩和、

EU の方針なども含んだ包括的な実用化施策、と未来技術分野のミッションとして、ドイツなら

びに欧州をAI の研究開発実用化の拠点 とし 、人材を確保しながら、多様な応用領域を巻き込

むことで AI をベースとしたビジネスモデルを構築する、が示されている。

 

フランス、国立研究機構(ANR)と公共投資銀行(Bpifrance)を挙げることができる。前者は、基礎研究から技術移転プログラムまで、幅広く資金配分をしている。後者は、主に中小企業によるイノベーション創出活動を中心に資金を配分している。また、

環境・省エネルギー機構(ADEME)も、小規模ながら競争的資金を配分する。

研究開発の主な推進主体は、高等教育・研究・イノベーション省と関連各省の両者の傘下に位

置する公的研究機関である。国立科学センター(CNRS)、国立保健医学研究機構(INSERM)、

原子力・代替エネルギー庁(CEA)、国立農学・食料・環境研究所(INRAE)214、国立情報学自

動制御研究所(INRIA)といった研究所がある。なお、公的研究機関は、国立科学研究センター

(CNRS)などの「科学・技術的性格の公的研究機関」と、原子力・代替エネルギー庁(CEA)

などの「産業・商業的性格の公的研究機関」に区分される

ファンディング・システム高等教育機関、CNRS やCNES(国立宇宙研究センター)およびCEA(原子力・代替エネルギー庁)などの公的研究機関である。研究開発にかかる公的資金の公的研究機関や大学への支出は、その多くが機関補助と競争的資

金の配分による。すなわち、機関補助については、所管省との間で原則として4、5 年ごとに締

結される契約に基づき、後述するMESRI 所管のMIRES(研究・高等教育省際ミッション)予

算より毎年一定額が配分される。FutuRIS の試算222によると、2008 年度は、大学へ配分される

資金の94.2%、および国立研究機関へ配分される資金の92.9%が機関補助であったが、2019 年1

月MESRI 発表資料223では、これらの機関補助の割合は、大学では76.58%、国立科学研究セン

ター(CNRS)など科学・技術的性格の公的研究機関では76.57%、原子力・代替エネルギー庁

(CEA)などの産業・商業的性格の公的研究機関では52.15%となっており、ここ10 年の間に大

学や公的研究機関の資金における機関補助の割合が減少している。2010 年以降「将来への投資計

画」施策など競争的資金の割合が高まった結果といえ、今後さらに競争的資金の割合を増額して

218 大学区:従来フランス全土に30 ある大学区は2016 年の制度改正で17 へと再編成された。

219 NOTRe 法(2015 年8 月法):フランス本土の地方区分けを以前の22 地方から13 地方へと変更し、地方への権限移譲を推進する法律。ヌーベル・アキテーヌ、オクシタニ―などの新地方名が設けられた。中小企業支援、地方経済・イノベーション・国際化推進計画、持続可能性計画の策定などが地方の所管とされた。いくという政府の方針が着実に進んでいるといえる。

競争的資金は、主として国立研究機構(ANR: Agence nationale de la recherche)によって配

分されている。ANR はフランスで初の独立したファンディング・エージェンシーとして2005 年

に設立された。ANR の設立にあたっては、1999 年以来、国民教育・高等教育・研究省が配分し

ていたFonds National de la Science(アカデミックな研究のための資金)とFonds de la Recherche

Technologique(産学官の共同研究のための資金)の2 つの競争的資金(約2 億ユーロ)

がANR に吸収された。ANR が2018 年に配分した資金は約5 億1800 万ユーロであり、採択率

は16.2%であった。ANR の行動計画は、MESRI、研究連合の代表等が参加し、MESRI の代表者が議長役を務め

るプログラム指針策定委員会(CPP:Comité Pilotage Programmation)によって策定される。

このCPP は、年に2 回開催され、1 回目は翌年分の行動計画、2 回目は欧州での行動計画を策定

する。ANR の公募プログラムは、2014 年度から、社会的課題に基づいた国の研究方針であるSNR

France Europe 2020 の方針に沿っており、EU のHorizon 2020 および国連の持続可能な発展目

標と連携したものとなっている。ANR の2020 年計画では、国連のAgenda2030 とEU の次期プ

ログラムHorizon Europe 策定を見据え、5 つの研究連合(アリアンス)とともにフランスの官

民全体の研究機関の動員を期し、分野横断研究では下記の項目に注力している。

 健康・環境・社会

 健康・デジタル

 デジタルな人類

 社会・デジタル・セキュリティー

 デジタル・エネルギー・環境・社会

また2020 年計画は、国により定められた下記の優先項目を含んでいる。

 人工知能

 人文社会科学

 量子技術

 薬剤耐性

 神経発達障害における自閉症

 希少疾患における平行的な研究

ANR の公募は、①主として一般公募からなる「研究とイノベーション」、②緊急課題やチャレ

ンジなどからなる「特定公募」、③「欧州研究圏の構築およびフランスの国際的な魅力の向上」、④

中小企業の研究活動を支援するLabCom や、カルノー機関へのプログラムからなる「研究による

経済的なインパクトと競争力」が主な柱である。

一般公募には、協力プログラム、若手研究者の支援プログラム、国際協力プログラム、企業協

力プログラムといった種別がある。特定公募には企業との産業講座プログラムや、カルノー機関

への支援プログラム、混成研究ユニットに研究チーム単位で参加するプログラム、ERC、欧州・

国際ネットワーク形成プログラムなどがある224。一般公募は、ANR の配分資金の約85.5%を占

めており、その2018 年の分野別内訳はライフサイエンス26%、 分野横断研究22%、エネルギーと材料15%、 デジタルサイエンス11%となっている。

「研究とイノベーション」はSNR France Europe 2020 に沿った下記7 つの研究分野における

36 の軸と13 の分野横断の軸を対象としている。

 環境

 エネルギーと材料科学

 ライフサイエンス

 人文社会科学

 デジタルサイエンス

 数学とインタラクション

 物理、高エネルギー、惑星と宇宙

13 の分野横断の軸は以下の通りである。

 人類と環境のインタラクション

 汚染物質とエコシステムと健康

 感染性疾患と環境

 公衆の健康、健康と社会

 生物学と健康のための数学とデジタルサイエンス

 デジタル革命:知と文化との関係

 健康のためのテクノロジー

 グローバルセキュリティー・サイバーセキュリティー

 バイオ経済:化学、バイオ技術、バイオマス利用におけるプロセスとアプローチ

 都市社会、地方、建設とモビリティ

 未来の製品のためのナノ材料とナノテク

 センサー、分析機器

 未来の産業と工場:人、組織、技術

ANR では国の方針で2018 年半ばより、公的資金支援を受けたプロジェクト研究に由来する発

表論文やデータについてオープン・アクセスを義務付けている。

主に中小企業のイノベーション支援に取り組むファンディング機関としては、公共投資銀行

(Bpifrance)がある。これまでは2005 年に設立されたOSÉO がその役割を担ってきたが、2013

年にBpifrance に統合された。Bpifrance は、経済・財務省およびMESRI の監督下に置かれて

いる。

研究開発に関わる予算は、MIRES(研究・高等教育省際ミッション225)という予算枠にまと

められ配分されている。省庁ごとの予算編成ではなく、ミッションごとの予算編成が行われる点

に特徴がある。MIRES に含まれるプログラムの一覧を図表Ⅵ-4 に示す。このMIRES は、2006

年から本格的に施行された予算組織法(LOLF)に伴う仕組みに基づく予算枠であり、この枠組

で省庁を超えた高等教育・研究関連予算が一括して議会に要求され審議される。MESRI 大臣が、

国会審議に責任を有する。政府全体としては32 のミッションがあり、このうちMESRI が担当

するミッションであるMIRES は9 つのプログラムで構成され、そのうち4 つ(プログラム番号

150、231、172、193)を高等教育・イノベーション省(MESRI)が所管している。残りの5 つ

(190、192、191、186、142)は他省の所管である。議会はMIRES の枠組で提出された予算案

内のプログラム間の額の配分を変更することはできるが、MIRES の総額は変更することはでき

ない。2020 年度MIRES 要求額は、約286 億ユーロであり、微増傾向にある。MESRI が所管す

る予算は、MIRES 全体の9 割近くを占める。

公的な研究投資として上記MIRES 予算以外のものとしては、前掲の「将来への投資計画」に

よる資金、後述する研究費税額控除(CIR)が挙げられるが、それ以外にフランスには地域振興

予算(CPER: Le Contrat de plan Etat-Région)のうちの科学技術向け予算がある。この地域振

興予算は1982 年7 月法により地方分権化政策の一環としてミッテラン政権下で開始されたもの

で、6 年から7 年のサイクルで国と地方間で策定される。地域振興予算自体は広く地方の雇用、

高等教育・研究とイノベーション、環境対策、交通・インフラ整備などを対象としたもので、

2015-2020 年期の総予算は約310 億ユーロであり(地域振興予算の歴史と展望報告226)、高等教

育・研究・イノベーションについては約32 億ユーロが予算化されている。研究への投資額の規

模は全国で約10 億ユーロ(6-7 年あたり)と言われており、地域の大学・公的研究機関にとって

は重要な資金源となっている。この地域振興予算の高等教育・研究分野に関しては、先述の各地

方の地方大学区長の所管となる__

マクロン政権は、また「将来への投資計画」施策(PIA)を継ぐ、新大型投資計画(GPI)におい

て、次の4 項目を優先課題として発表している。

 環境に留意した社会への移行の加速化(資金配分200 億ユーロ)

 建造物の熱効率に留意したリノベーションの加速

 持続可能な輸送システム

 再生可能エネルギーと環境イノベーション

 スキル社会の構築(資金配分150 億ユーロ)

 イノベーションによる競争力の定着化(資金配分130 億ユーロ)

 高等教育とイノベーション

 農業

 デジタル国家の建設 (資金配分90 億ユーロ)

 健康医療分野のシステムのデジタル化

 将来の効率的な公的機関への転換のための投資1) 資源管理および気候変動への対応

気候変動に対する知識を構築するとともに、原材料のサプライチェーン全体(探査、採

掘、加工、再利用、リサイクル)にわたった研究・イノベーションを推進する。また、新

材料の開発、環境にやさしい加工、統合化された管理システムの開発、といった重要テー

マに取り組む。

2) クリーンで、安全で効率的なエネルギー

エネルギー源の移行に取り組む。海洋資源・風力・バイオマスといった再生可能資源に

関連する評価・予測を改善する。太陽電池などの生産効率を上げるための新しい技術開発

に取り組む。

3) 産業の復興

工場の電子情報化、人を中心とした柔軟な製造工程、新材料の設計、センサーと機器な

どの課題に取り組む。

4) 健康と社会的福祉

生命体の多様性と進化に関するマルチスケール解析、生物学的データの処理・収集、研

究と治療のための中核研究拠点全国ネットワークなどの課題に取り組む。

5) 食料安全保障と人口変動

健康的で持続可能な栄養摂取、生産システム統合化のアプローチ、バイオマスの生産か

ら利用の多様化まで、などの課題に取り組む。

6) 持続可能な輸送と都市システム

都市観測施設の展開、新たな移動手段の考案、持続可能な都市に役立つ手段・技術、都

市の基盤構造・ネットワークの統合と復元などの課題に取り組む。

7) 情報通信社会

第5 世代ネットワーク基盤構造、モノのインターネット、大量データの活用、マン・マ

シン協働などの課題に取り組む。

8) 革新的、包括的かつ適応力のある社会

イノベーション能力の新たな指標、データの利用可能性と知識の抽出、社会的・教育的・

文化的イノベーションなどの課題に取り組む。

9) 欧州のための宇宙・航空

地球観測における一連のサービス、データ通信・ナビゲーション分野の競争力、重要部

品、大宇宙の観測・探査技術、国防と国土安全保障などの課題に取り組む。

10) 欧州市民社会の自由と安全

リスクや脅威の防止・予測、危機管理の統合的アプローチ、セキュリティシステムの回

復力などの課題に取り組む。

④ __________フランスの次期研究戦略

現行の研究戦略SNR France Europe 2020 はFrance Europe 2020 を踏まえたものであり、今

後用意されるフランスの研究戦略は、EU の次期プログラムHorizon Europe に沿ったものであ

ろうことが予想される。ロレーヌ大学、ブルゴーニュ・フランシュコンテ大学、

リール大学、モンペリエ大学、クレルモンフェラン大学、ナント大学、パリ東大学、セルジー・

ポントワーズ大学、ポー大学である。競争力拠点は、ICT、医療、バイオ、エネルギー、環境などの産業育成に向けた研究開発支援

を実施している水素、太陽光、スマート

グリッド、水力といったエネルギーに関わる企業と、主たるメンバーであるフランス電力(EDF)、

原子力・代替エネルギー庁(CEA)、コルシカ開発公社および公的研究機関の約500 のメンバー

が加盟するもので、どちらの競争力拠点も設置されている地方自治体の強い支援を受け、雇用や

社会経済的な方針などを地方政府と共有している。技術研究所 (IRT :Instituts de Recherche Technologique)

技術研究所(IRT)は、官民連携により運営される、技術移転を目的とした組織で8 つが認定され

ている。競争力拠点を中心として形成されるイノベーション・エコシステムを強化するため、競

争力拠点からも認定を受けて設置される。「将来への投資計画」プログラムの枠組みで設置が始ま

り、20 億ユーロの資金がANR を介し国から配分されている。機能としてはカルノーラベル研究

機関に類似するが、それよりも規模が大きく、また提供するサービスの範囲が広く、さらに官民

連携組織により運営されるという点で異なる。

一例としてトゥ―ルーズ地区にあるサンテクジュペリ研究所を挙げる。前掲の競争力拠点アエ

ロスペースヴァレーと連携して競争力のある付加価値を生み出す研究活動を行っている。競争力

拠点は主としてコアとなるプロジェクトをめぐるビジネスパートナーや資金の確保を、IRT であ

るサンテクジュペリ研究所は研究プロジェクトの実行を担い、対象技術レベルはTRL4-6 である。

研究所のガバナンスを担う委員は15 名で企業側と高等教育・公的研究機関側がほぼ半々である。

研究活動を行う人員は約300 名で企業側からの出向が50%、25%が博士課程学生とポスドク、

20%がIRT 所属の研究者、5%が公的研究機関からの出向であるが、博士課程学生等は地区の高

等教育機関からの応募者を優先的に採用している。2014 年当初に研究を開始した博士課程学生

15 名のうち9 名はパートナー企業に就職している。博士課程学生の雇用はプロジェクト内容精査

後にウェブ上に募集要項を掲示し、高等教育機関で博士課程の履修を要望する学生が応募をする。

博士課程学生の研究従事時間の配分については大学とIRT の間で柔軟に決められる。

エネルギー技術に特化した、エネルギー技術研究所ITE(Institut pour la Transition Energétique)

というものもあり、8 か所が登録され同様に「将来への投資計画」の枠組みで財政支援

されている。

6.3.2 個別分野の戦略・政策及び施策

以下では、環境・エネルギー、ライフサイエンス・臨床医学、システム・情報科学技術、ナノ

テクノロジー・材料の4 分野を取り上げ、関連する重要政策・戦略および施策等について概説す

る。なお、フランスでは航空宇宙分野における研究を推進する公的研究機関としては国立航空研究

所(ONERA)、航空宇宙分野に関する計画を立案し官民連携を図り実行していく機関として国立

宇宙研究センター(CNES)があり、これら機関は欧州宇宙機関(ESA)と緊密に連携をしてい

る。競争を増す近年の宇宙開発の中で、人工衛星打ち上げ用の次世代ロケットアリアン6 の2020

年の初打ち上げを目指して開発を推進してい環境・エネルギー分野資源管理については、海洋生物資源の探索により、それを将来のエネルギー源としての活用に結びつけるという方向性が示されている。なお、「深海資源の活用の環境への影響に関わる報告書」244が2014 年6 月にフランス国立海洋開発研究所(IFREMER)と国立科学研究センター(CNRS)より発表されている。

② 「低炭素戦略 」245と「エネルギーに関する複数年計画2019-2023、2023-2028」246

2018 年末から2019 年頭にかけ環境連帯移行省の所管のもと、エネルギーに関する二つの重要

な政策文書が発表された。2018 年12 月に発表された新「低炭素戦略」は2050 年のカーボンニ

ュートラルを見据えたロードマップであり2019 年11 末現在、欧州諸国とも同じ目標を共有すべ

く協議を行っている。 また2019 年1 月に発表された「エネルギーに関する複数年計画2019-2023、

2023-2028」は、今後10 年に亘るフランスのエネルギー戦略を定めており、先に発表された「低

炭素戦略」の方向性に沿ったものであり、エネルギー消費、化石燃料消費、再生可能ガス生産量、

原子力発電、経済成長、雇用といった指標に数値目標を定めている。具体的には、パリ協定に鑑

み、全てのセクターでのエネルギー消費の削減を求めているほか、再生ガス利用や水素、風力、

太陽光、バイオマス、地熱発電といったエネルギー源の多様化、環境要求に配慮した安定供給、

蓄電、研究とイノベーション、エネルギー価格の競争性の維持、地方自治体の参加などの方向性

を示している。原子力発電に関しては、2012 年9 月にオランド大統領により「2025 年までに原

子力発電の総発電に占める割合を、現行の75%から50%に削減する」という目標が示されたが、

本「エネルギーに関する複数年計画」においては、この目標の達成年限を「2035 年までに」と修

正している。

③ 環境連帯移行に関する閣僚審議会(Conseil Defense ecologique)

2019 年の5 月23 日より開催されている本委員会は大統領のイニシアティブの下、首相と複数

の関係閣僚から構成され、その役割は環境連帯移行省のみでなく国の行う政策全体が、政府の気

候と生物多様性に関する野心的な目標を遵守していくようにすることである。会議は定期的に行

われ、そのミッションは環境政策の方向を決定、策定された方向性の実行のフォローアップ、必

要な追加措置をとることである。2019 年の審議会では、気候変動に対抗し、生物多様性の宝庫で

ある森林の保護のための提案とそのための6 カ月の調査をアンヌ=ロール・カトゥロ国会議員に

命じることを決定した。

④ テーマ別研究連合による取り組み

本分野に主として関係する研究連合はANCRE247(エネルギー)及びAllEnvi248(環境)であ

る。

ANCRE は、CEA やCNRS 等の約20 の機関から成る研究連合である。上述のとおり、現在フ__ランスでは2050 年に向けてのエネルギー源の変更シナリオを検討している。そのシナリオ作り

に向けた研究が、主要な取り組みの一つである。

AllEnvi は地質鉱山研究局(BRGM)やCEA 等12 の設立機関と、15 のアソシエイト・パー

トナーとから成る組織である。大洋、大気、地球など長期に継続するいくつかのワーキンググル

ープ(例えば地球グループは気温、海水温、CO2 濃度、地震など様々なデータを収集している)

に加え、環境面で緊急のテーマを扱うグループ(例えば殺虫剤のようなテーマは2~3 年程度の

短期のワーキンググループが立ち上げられ、政府の諮問に応えている)があ

ライフサイエンス・臨床医学分野ライフサイエンス分野に関する戦略は、健康と社会的福祉、食糧安全保障と人口変動という社会的課題に関連づけられて立てられている。前者においては、複数のスケールにおける生命体の多様性と変化の分析、生物に関するデータの作成と収集、研究と治療に関する優れた拠点のネットワーク化といったものが優先項目として挙げられている。後者においては、健康的で持続可能な食糧(体内細菌の研究、食糧生産・加工・貯蓄プロセスのエネルギー効率の向上など)、生産プロセスに対する統合的なアプローチ(複数ステークホルダーの連携、アグロエコロジー、予測生物学など)、バイオマスの多様な利用に基づく(食料、物質、エネルギーの)生産といった分野が優先項目に挙げられている。特定の医療対策のプロジェクトとしてはガン計画(plan cancer 2014-2019)などが挙げられるが、近年は、2018 年第三次希少疾患国家計画2018-2022(Le troisième plan national maladiesrares (PNMR) 2018-2022)が開始されている。

② 研究連合の名称とテーマ

本分野に主として関係する研究連合はAVIESAN249(ライフサイエンス、医療)である。

AVIESAN は、INSERM、CEA、CNRS、地域病院・大学センター(CHRU)等の約20 の機関

からなる組織である。ライフサイエンス・技術、公衆衛生、社会の期待に応える医療、生物医学

分野の経済性の向上、といったテーマに取り組んでいる。基礎研究に力を入れるだけでなく、企

業の連携会員も有し、研究成果の活用も重視している。

③ ANR などを介した国の研究支援

フランス政府は近年バイオ・ライフ支援に重点を置いており、ANR を介した配分資金の85.5%

を占める一般公募におけるライフサイエンスの資金配分割合は26%と、その他の分野横断研究22%、

エネルギーと材料15%、デジタルサイエンス11%などよりも大きい。

フランスはライフ関連研究を優先研究項目のひとつとしており、ANR の2020 年計画における

5 つの分野横断研究のうち下記に挙げる2 項目がライフ関連となっている。

 健康・環境・社会

 健康・デジタル

また優先研究項目として掲げた6 項目のうち下記3 項目がライフ関連となっている。

 薬剤耐性

 神経発達障害における自閉症

 希少疾患における平行的な研究

前掲の「将来への投資計画」の枠組みでは2010、2011 年と2 回にわたり171 件のバイオ・ラ

イフ関連プロジェクトに資金が配分されており、具体的な配分先としては、6.3.1.1 の人材育成と

流動性の項で挙げた「優れた研究室(LABEX)」プログラム、6.3.1.2.の研究拠点・基盤整備の項

で挙げた「高度な研究設備(EquipEX)」プログラムや国の「研究インフラロードマップ」掲載

の研究インフラ、6.3.1.3.の項で紹介した「技術研究所(IRT)」の一つで応用微生物学を専門と

するビオアスター研究所250、その他大学病院研究所251、コホート、バイオ技術における臨床試験 、

バイオインフォマティクスやナノテクノロジー関連研究等が挙げられる。

「研究インフラロードマップ」掲載のバイオ・ライフ関連の研究インフラについては、図表VI-5

で「フランス・ライフ・イメージング(FLI)」、「動物モデル創生、育成、表現型分類、配賦およ

び保存記録の為の国立インフラ(CELPHEDIA)」をあげたがこの2 例を含め全部で24 のバイオ・

ライフ関連のインフラが登録されている。これらライフ関連の研究基盤を支援するものとして科

学的利益団体252「バイオと健康及び農学に関するインフラ(IBISA:Infrastrutures en Biologie

Sante et Agronomie)」があり、国のバイオ・ライフ関連インフラの活性化と組織化を担ってお

り、官民あわせたライフサイエンス関連研究のプラットフォームやインフラ機関に関する国の認

定や支援政策の調整を行っている。認定の具体例を挙げると、グルノーブル地区にあるニューロ

サイエンスに関する混成研究支援ユニット・イルマージュ(UMS IRMaGe)253は、INSERM254

とグルノーブル・アルプ大学、グルノーブル・アルプ大学病院、CNRS255との混成研究支援ユニ

ットであり、IBISA の認定を受けている。また本UMS は前出の「フランス・ライフ・イメージ

ング」の一員でもある。MRI を2 機、脳波測定器(EEG)1 機、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)1

機、近赤外線分光器を1 機、等を擁し、人員は14 名である。共同で運営する機関の研究者から

の案件のみならず、地域の研究者及び産業界からの要請にも、要望先に応じた費用体系を用意し

て対応している。

また6.1.1.で述べた経済・財務省とMESRI 共同開催のイノベーション審議会が方針を策定す

る「産業とイノベーションのための基金」から行われるそれぞれ最大3000 万ユーロの資金支援

がANR などを介し行われているが、5 つのチャレンジのうち二つはライフに関連する以下のよ

うなものとなっている。

 人工知能により医療診断を改善する方法

 付加価値の高いタンパク質を生物学的に低コストで生産する方法

システム・情報科学技術分野

SNR France Europe 2020 における位置づけ

情報科学技術分野に関連した戦略は、情報通信社会と革新的、包括的かつ適応力のある社会、

という社会的課題に関連づけて立てられている。

前者においては、第5 世代ネットワークのためのインフラ開発、ネットワーク化されたモノ

(IoT)、大規模データの活用、人間・機械間の連携といった領域が挙げられている。

後者においては、データの利用可能性の向上およびデータから知識を得る手法の洗練といっ

た領域が挙げられている。

② 研究連合の名称とテーマ

本分野に主として関係する研究連合はALLISTENE256(デジタル・エコノミー)である。ALLISTENE は、国立情報学自動制御研究所(INRIA)、CNRS 等の6 機関から成る組織であ

る。1)数理モデル、2)ソフトウェア、3)ネットワークおよびサービス、4)自律システム・

ロボティクス、5)ICT のためのナノサイエンス・ナノテクノロジー、6)上記テーマ間の横断

的な研究、といったテーマに取り組んでいる。

③ デジタル人材及び人工知能(AI)研究に関する取り組みる。骨子

はAI 研究分野における1)研究の連携 i)AI 周辺(アルゴリズム、推論等)、統合的テーマ

(ロボット技術、データ・サイエンス等)、ii)応用(国防・安全保障、輸送・移動手段、医療、

環境)、2)人材育成:博士課程向け講座プログラムの設置となっている。採択拠点は、グルノ

ーブル、ニース、パリ、トゥ―ルーズの4 都市地域であり、各採択拠点では多くの民間企業や

外国企業等が参加している。、各センターの計算機は大規模研究インフラロードマップで紹

介した国立高速計算施設(Grand Equipement National de Calcul Intensif : GENCI)がとりまと

めをおこなっている。購入費用については49%はGENCI が支出し、残りは公的研究機関や国が

支出している。また運用についてもGENCI がマシーンの更新・運用時間の最適化などをおこな

っている。GENCI は独自の人員を擁しているが、各計算センターの人員コストは運営するCNRS

やCEA、大学などが負担している。GENCI 設立の動機は研究コミュニティーからの計算要求を

ひとつの窓口に絞り、計算負荷を最適化、ノウハウを蓄積することであり、ピアレビューを行う

メリットもある。年に二回公募が行われ、委員会が設置され、研究者からの計算要望書をGENCI

側の科学者が確認している。また3 つのセンターの一つであるCEA 大規模研究センター(TGCC)

はEU からの資金配分をうけているが、その際の代表はGENCI が代行している。GENCI は欧

州における先端コンピューティングパートナーシップ(Partnership for Advanced Computing in

Europe:PRACE)259においてフランスを代表する役割も果たしている。なお、欧州委員会の資

金がマシーン購入に配分される欧州HPC 共同事業(European High-Performance Computing

Joint Undertaking:HPC)260に関しては、加盟主体は加盟国となるのでフランスの代表はMESRI

が行っている。259 欧州先端コンピューティングパートナーシップhttp://www.prace-ri.eu/

PRACE はマシーン購入、マシーンタイムの最適化などのリソースを折半するための協定であり、少数の加盟国からなっている。EUの資金は機構の活性化目標にのみ拠出されている。

6.3.2.4 ナノテクノロジー・材料分野

ナノテクノロジーと材料分野の研究は、経済・財務省傘下の企業総局(DGE)と研究所管省が

共同で所管している。

① SNR France Europe 2020 における位置づけ

ナノテクノロジー・材料分野に関連した戦略は、産業の復興という社会的課題に関連づけられ

て立てられている。ここでは、デジタル化された工場、環境および市民に優しい工場、人間中心

の柔軟な製造プロセス、新しい材料のデザイン、センサーとそこから得られた情報を活用できる

システムの構築といった項目が優先領域とされている。

② ナノ2022(Nano2022)

Nano2022 は官民共同で実施される5 年間のサポート・プログラムであり、マイクロエレクト

ロニクス技術の研究開発及び実用化、特に試作開発から量産への移行という困難を伴う作業も対

象としてサポートする。2019 年3 月、エレクトロニクス業界と関連研究機関が、フランス政府

と協約262を結び共同で進めるものとして発表した。公的研究機関としてはCEA の技術部(CEA

Tech)がプロジェクト管理に参画し、産業界はST マイクロエレクトロニクス社がリーダー企業

として参画するNano2022 は仏、伊、独及び英国のマイクロエレクトロニクスに関する共同プロ

ジェクト「欧州共通利害共同プロジェクト(Important Project of Common European Interest :

IPCEI)」の一部として位置づけられている。

国内レベルでは、Nano2022 に対し10 億ユーロ規模の公的助成(うち国の助成は8 億8650 万

ユーロ)の支援が計画され、IPCEI の枠組みでは4 か国で合計17 億5 千万ユーロを支援するこ

とが欧州委員会によって承認された。対象分野は自動車、5G、AI、IoT、航空宇宙・安全保障と

252② ナノ2022(Nano2022)

Nano2022 は官民共同で実施される5 年間のサポート・プログラムであり、マイクロエレクト

ロニクス技術の研究開発及び実用化、特に試作開発から量産への移行という困難を伴う作業も対

象としてサポートする。2019 年3 月、エレクトロニクス業界と関連研究機関が、フランス政府

と協約262を結び共同で進めるものとして発表した。公的研究機関としてはCEA の技術部(CEA

Tech)がプロジェクト管理に参画し、産業界はST マイクロエレクトロニクス社がリーダー企業

として参画するNano2022 は仏、伊、独及び英国のマイクロエレクトロニクスに関する共同プロ

ジェクト「欧州共通利害共同プロジェクト(Important Project of Common European Interest :

IPCEI)」の一部として位置づけられている。

国内レベルでは、Nano2022 に対し10 億ユーロ規模の公的助成(うち国の助成は8 億8650 万

ユーロ)の支援が計画され、IPCEI の枠組みでは4 か国で合計17 億5 千万ユーロを支援するこ

とが欧州委員会によって承認された。対象分野は自動車、5G、AI、IoT、航空宇宙・安全保障と

計算センター名称運営場所備考集中サイエンスコンピューティングの開発と資源のための研究所IDRIS

CNRS オルセイ(パリ・サクレー)

CEA大規模計算センター

TGCC

CEA ブリュイエール・ル・シャテル

高等教育の為の国立コンピュー

ティングセンター

CINES

CINES運営委員会/MESRI モンペリエ大学研究用

いった領域に関わる次世代コンポーネントの製造技術で、具体的には1)高エネルギー効率チッ

プ、2)パワー半導体、3)スマートセンサー、4)先端光学機器、5)シリコンに替わる材料等で

あり、これらの開発活動、R&D 投資と工業化の前段階を支援する計画で、2018-2022 年の5 年

間に最終的に官民あわせて50 億ユーロ規模となる民間投資の呼び込みと新たな雇用創出を期待

している。特にコネクティビティ、計算、センサー、エネルギー関連エレクトロニクス、サイバ

ーセキュリティといった技術においては先端的な技術の確保に努め、AI に関しては国のAI 国家

戦略に沿い、エッジコンピューティングの領域で技術的に他国に依存しない体制の構築を目指し

ている。

③ レナテック(RENATCH)

フランスのナノテク・微細加工研究開発の代表的な技術プラットフォームとしてRENATCH

(Réseau national des grandes centrales de technologies)263が挙げられる。国内5 か所の拠点

はそれぞれCNRS の研究所としてクリーンルームを設置し、合計で7,300 ㎡のクリーンルームを

擁し、150 人の専門技術スタッフ、1 億3000 万ユーロ相当の装置を備えている。6.3.1.2 の項で

紹介した大規模研究インフラロードマップにも含まれている。5 拠点がネットワークを組む分散

型研究インフラであり、リール、オルセー(パリ・サクレー)及び、マルクッシ、ブザンソン、

グルノーブル(MINATEC に併設)、トゥ―ルーズに拠点がある。

④ 量子分野

2019 年に下院である国民議会でミッションが設置されており、フォルテッサ議員により2020

年1 月9 日量子戦略の報告書「量子技術:フランスは技術的転換点を曲がり損ねない264」が政府

に提出された。今後この提言をうけて、2020 年中には量子分野に関する国の戦略とそのロードマ

ップが策定・公表される予定である。

本報告書ではこの革新的技術がもたらす経済成長とサイバーセキュリティなどの技術に関わる

国の主権保持を重要課題として捉えている。研究に関してはANR を介した1000 万ユーロ規模の

プロジェクト公募や、パリ、パリ・サクレー、グルノーブルでの拠点形成、ANR とBPI の共同

公募による分野横断研究への支援、量子技術を専門とするスタートアップの育成の加速、エンジ

ニアリングと量子コンピューティングを専門とした職業教育の整備と産業界における量子技術者

のニーズ増加への対応、当該技術に関わるステークホルダーへの戦略的技術や技術情報の窃取の

リスクと対抗措置への感化、戦略的技術資産や活動を注視し、必要に応じ国家の科学技術的潜在

力の保護に関する法令等を活用する等、全37 項目の提言を行っている。

⑤ 研究連合の名称とテーマ

本分野に関係する研究連合はALLISTENE265(デジタル・エコノミー)、AVIESAN266(ライ

フサイエンス、医療)、ANCRE267(エネルギー)及びAllEnvi268(食糧、水、気候、国土)であ

る。

⑥ その他

2019 年2 月に「明日の自動車をフランスで製造する」269という文書が発表されており、自動

運転車や電気自動車・ハイブリッド車の開発とともに、仏独コンソーシアムを基礎にした連携と

蓄電池生産産業の育成などが表明されている。

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